現在開かれている第198回国会に、衆議院議員提出法律案の第2号として「業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案」が提出されました。しかし、4月24日に衆議院厚生労働委員会において否決され、翌日(4月25日)には衆議院本会議においても否決されています。
まだ議事録が公開されていないので、いかなる理由により否決されたのかはわかりません。とりあえず、どのような法律案であるのか、見てみましょう。
第1条には「目的」という見出しが付けられています。条文の文言は次の通りです。
「この法律は、性別に関する差別的意識等に基づく業務等における性的加害言動が従業者等の生活に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、業務等における性的加害言動を禁止するとともに、業務等における性的加害言動を受けた従業者等に対する支援その他の施策を推進することにより、従業者等の職業生活の充実等を図ることを目的とする」。
第2条には「定義」という見出しが付けられています。柱書は「この法律において『業務等における性的加害言動』とは、事業者の使用人、役員その他の従業者又は個人事業者(以下「従業者等」という。)が、その業務に関連し、又はその業務上の地位を利用して他の従業者等(事業者の従業者になろうとする者を含む。以下この条及び第四条において同じ。)に対して行う当該他の従業者等の意に反する性的な言動であって、次に掲げるおそれその他の当該他の従業者等に精神的又は身体的な苦痛を与えるおそれがあるものをいう」となっています。
柱書にある「次に掲げるおそれ」として、第1号において「当該言動に対する当該他の従業者等の対応により当該他の従業者等がその就業又は就職に関する事項につき不利益を受けるおそれ」、第2号として「当該言動により、当該他の従業者等の就業環境を害し、又はその求職活動に支障を及ぼすおそれ」となっています。
通常、柱書にある「その他の当該他の従業者等に精神的又は身体的な苦痛を与えるおそれ(があるもの)」は第3号として掲げるものではないかと思われますが、第1号および第2号は典型的なものである、ということなのでしょう。
第3条には「業務等における性的加害言動の禁止」という見出しが付けられており、「従業者等は、業務等における性的加害言動をしてはならない」とされています。
第4条には「事業者の責務」という見出しが付けられています。「責務」となっており、法的拘束力があるとしても弱いものに留められていますが、この条文の内容が否決の理由の一つではないかと思われます。次のような条文です。
「事業者は、その従業者が前条の規定に違反して業務等における性的加害言動を行ったときは、当該従業者に対する懲戒等、その更生のための研修の実施その他の当該業務等における性的加害言動への対処、当該業務等における性的加害言動を受けた従業者等(以下「被害従業者等」という。)に対する情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。」
この規定の仕方では、例えば「事業者」が「懲戒等」、「性的加害言動への対処」、「情報の提供」などの「必要な措置」をとらなかったとしても、罰せられる訳ではありません。せいぜい監督官庁から指導を受ける程度でしょう。その意味では中途半端なのですが、逆にこの程度でも「事業者」に厳しいというのであれば、日本の企業社会から「性的加害言動」はなくならないし、減りもしないでしょう。私の学生時代、それどころか児童・生徒時代から、企業社会においてほど人権などが無視される社会はないとも聞かされていました。いや、企業社会に留まらず、社会全体とも言えるでしょう。
第5条には「指針の作成」という見出しが付けられており、「国は、業務等における性的加害言動の禁止に関し、業務等における性的加害言動の具体的内容その他必要な事項を定めた指針を作成するものとする」となっています。これは、従来からマニュアルのような形で作られてきていますので、それ程難しい話でもないでしょう。
第6条には「相談体制の整備等」という見出しが付けられており、「国及び地方公共団体は、業務等における性的加害言動に関する相談に的確に応ずることができるよう、相談体制の整備並びに専門的知識を有する人材の確保、養成及び資質の向上その他の必要な施策を講ずるものとする」とされています。ここにあげられている施策が十分に行われうるかについては疑問視しておくしかありません。これまでの地方公共団体の業務改革などの方向性からすれば、むしろ逆に進んでいるとも言えるからです。
第7条には「紛争の迅速かつ適切な解決」という見出しが付けられています。条文は次の通りです。
「国及び地方公共団体は、業務等における性的加害言動に関する紛争の迅速かつ適切な解決に資するよう、従業者等が行った言動に関する事実関係を調査して当該言動が業務等における性的加害言動に該当するかどうかを判断し、及びその判断の結果を就業環境の改善等に適切に活用するための体制の整備、被害従業者等の行う損害賠償の請求についての援助その他の必要な施策を講ずるものとする。」
第8条には「名誉及び生活の平穏への配慮」という見出しが付けられており、「国及び地方公共団体は、被害従業者等に対する支援その他の施策の実施に当たっては、その名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない」とされています。内容そのものは当然のものと考えてよいはずです。勿論、言と動は別物ですから注意しなければなりません。
本則の最後が第9条で「教育及び啓発」という見出しが付けられています。条文は「国及び地方公共団体は、業務等における性的加害言動及びこれにより生ずる問題に対する国民の関心と理解を深めるよう、業務等における性的加害言動及びこれにより生ずる問題に関する教育及び啓発の推進その他の必要な施策を講ずるものとする」となっています。
附則は2項のみで、第1項は「施行期日」として「公布の日から起算して三月を経過した日」より法律を施行すること、第2項は、「検討」として「国は、この法律の施行の状況等を勘案し、業務等における性的加害言動による被害者の司法を通じた救済の在り方等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」ことが記されています。
議事録が公開されれば、否決された理由がわかるのではないかと思われますが、おそらく第4条は大きな一つの理由としてあげられるのではないでしょうか。しかし、仮に私の推測が当たっているとすれば、ますます日本企業は外面からも内面からも魅力を失うでしょう。もっとも、それでよいのだ、と多くの日本国民が考えているのであれば、仕方がないので従うしかないのかもしれません。
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