ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

令和7年度税制改正の大綱に見る「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」

2025年01月03日 12時00分00秒 | 国際・政治

 このブログでは度々税制を取り上げています。カテゴリーとしては「社会・経済」のほうが相応しいのかもしれませんが、私は「国際・政治」に記事の多くを入れています。税制改正大綱を見れば、そして数多くの租税特別措置を見れば、税制は政治の一環であることが明白であるからです。「税制は政治である」と断言してもよいかもしれません。

 さて、今回取り上げようとする「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」は、まさしく政治の観点から捉えるべき事項です。2024年12月20日に与党がまとめた「令和7年度税制改正大綱」(以下、2025年度与党税制改正大綱)および2024年12月27日に閣議決定された「令和7年度税制改正の大綱」(以下、2025年度政府税制改正大綱)は、まさに政治的決断が下されたことがわかります。

 「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」は、2022年12月16日に与党がまとめた「令和5年度税制改正大綱」(以下、2023年度与党税制改正大綱)において打ち出されたものです。その21頁には次のように書かれていました(このブログに2023年12月15日7時0分0秒付で掲載した「令和6年度税制改正大綱が公表された」において引用の上で紹介しましたが、今回も重複をいとわず紹介致しましょう)。

 「わが国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。

 ①法人税

 法人税額に対し、税率4〜4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税から500万円を控除することとする。

 ②所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。

 廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。

 ③たばこ税

 3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。

 以上の措置の実施時期は、令和6年以降の適切な時期とする。」

 ここに登場するたばこ税は国税です。たばこに関する税金は、このブログに掲載している「講義内容を公開します たばこ税その1」(2020年7月1日0時33分9秒付)および「講義内容を公開します たばこ税その2」(2020年7月2日0時0分1秒付)において述べたように、たばこ税の他、都道府県たばこ税、市町村たばこ税、たばこ特別税がありますが、地方公共団体の財源確保のため、ならびに日本国有鉄道および国有林野事業の長期債務・累積債務の償還のために、国のたばこ税以外には手を入れないということなのでしょうか(違うであろうとは思っています)。

 2024年度税制改正において何らかの手が打たれるのかと予想していたのですが、2023年12月14日に与党がまとめた「令和6年度税制改正大綱」においては、次のように方針が述べられるに留まりました。

 「防衛化強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年度税制改正大綱に則って取り組む。なお、たばこ税については、加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている。同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に反って税負担差を解消することとし、この課税の適正化による増収を防衛財源に活用する。その上で、国税のたばこ税率を引き上げることとし、課税の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとする。」

 あわせて、令和5年度税制改正大綱及び上記の基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度の税制改正に関する法律の附則において明らかにするものとする。」(25頁。なお、この引用部分も、既にこのブログの「令和6年度税制改正大綱が公表された」において引用の上で紹介しています。

 おそらく、法人税および所得税について反対意見などが多かったものと考えられます。国家の基本にして最大の任務が安全確保・秩序維持であるということに鑑みれば、何よりも防衛力の強化こそ喫緊の課題であると言えますし、日本国民や内国法人が防衛力の強化に反対することなど「もってのほか!」のはずですが、反発が強かったように記憶しています。そのため、慎重に検討を重ねてきたというところでしょうか。

 そして、ようやく、2025年度与党税制改正大綱および2025年度政府税制改正大綱において「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」がまとめられました。2023年度与党税制改正大綱において取り上げられた3種の租税のうち、所得税以外のものについて具体的な像が示されました。2025年度政府税制改正大綱78頁以下の「六 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」を見ましょう。

 まずは「防衛特別法人税(仮称)の創設」です。法人に課される租税には、法人税の他に地方法人税(名称と異なって国税です)、特別法人事業税(これも国税ですが、都道府県が法人事業税の賦課徴収と併せて行います)などがあります。さらに別の租税が課されることとなる訳で、既存の租税とまとめることはできなかったのかと疑いましたが、とりあえず内容を見なければなりません。

 納税義務者は「各事業年度の所得に対する法人税を課される法人」とされており、その法人には「人格のない社団等及び法人課税信託の引受けを行う個人を含む」となっています。

 次に「課税の範囲」で、「法人の各課税事業年度の基準法人税額について、当分の間、防衛特別法人税を課する」とされています(基準法人税額については後に触れます)。「当分の間」とされていますので、実質的には恒久的措置ということになります。「当分の間」はいつまで経っても「当分の間」であり、期限が切られている訳でも何でもないからです。

 「防衛特別法人税(仮称)」の税額の計算は、次のとおりとされます。

 「①防衛特別法人税の額は、各課税事業年度の課税標準法人税額(課税標準) に4%の税率を乗じて計算した金額とする。」

 「② 課税標準法人税額は、基準法人税額から基礎控除額を控除した金額とする。

 「③ 基準法人税額は、次の制度を適用しないで計算した各事業年度の所得に対 する法人税の額とする。ただし、附帯税の額を除く。

 イ 所得税額の控除

 ロ 外国税額の控除

 ハ 分配時調整外国税相当額の控除

 ニ 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除

 ホ 戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置の税額控除及び同措置に係る通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額の加算

 ヘ 控除対象所得税額等相当額の控除」

 ④基礎控除額は、年500万円とする。なお、通算法人の基礎控除額は、年500 万円を各通算法人の基準法人税額の比で配分した金額とする。」

 基礎控除額の配分については「通算法人の基準法人税額が期限内申告における基準法人税額と異なる場合には、原則として期限内申告における基準法人税額により配分する」と注記がなされています。

 以上を前提として、税額控除として「外国税額の控除」、「分配時調整外国税相当額の控除」、「控除対象所得税額等相当額の控除」および「仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除」が行われることとなります。

 「防衛特別法人税(仮称)」は賦課課税方式ではなく、申告納税方式を採用します。基本が法人課税ですから当然のことでしょう。「申告及び納付等」については、次のとおりです。

 「①各事業年度の所得に対する法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税の中間申告書を提出しなければならない。」

 この中間申告書の提出については「令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度から適用する」とされています。

 「②防衛特別法人税の申告期限及びその申告に係る防衛特別法人税の納期限は、 各事業年度の所得に対する法人税の申告期限及び納期限と同一とする。」

 「③電子申告の特例については、各事業年度の所得に対する法人税と同様とする。」

 「④防衛特別法人税中間申告書を提出した法人からその防衛特別法人税中間申告書に係る課税事業年度の防衛特別法人税確定申告書の提出があった場合において、その防衛特別法人税確定申告書に中間納付額で防衛特別法人税の額の計算上控除しきれなかった金額の記載があるときは、その金額に相当する中間納付額を還付する。」

 「⑤各事業年度の所得に対する法人税につき欠損金の繰戻しによる法人税の還付の請求書を提出した法人に対して還付所得事業年度に該当する課税事業年度に係る法人税を還付する場合には、その課税事業年度の防衛特別法人税の額でその還付の時に確定しているもののうち、法人税の還付金の額に4%を乗じて計算した金額にその課税事業年度の課税標準法人税額を乗じてこれをその課税事業年度の基準法人税額で除して計算した金額に相当する金額を併せて還付する。」

 申告および納付については、基本的に法人税と同様であり、法人税と同一の申告手続となることでしょう。質問検査や罰則などについても「各事業年度の所得に対する法人税と同様とし、 その他所要の措置を講ずる」とされています。また、「令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用する」とされております。準備などからすれば妥当なところでしょうか。

 「防衛特別法人税(仮称)」については以上のとおりです。続いてたばこ税です。2025年度政府税制改正大綱では80頁以下に記されています。

 たばこにも様々な種類がありますので、種類ごとの見直しとなりますが、最初にあげられているのが加熱式たばこです。次のように書かれています。

 「①加熱式たばこに係る国及び地方のたばこ税の課税標準について、当分の間、次に掲げる加熱式たばこの区分に応じ、それぞれ次に定める方法により換算した紙巻たばこの本数とする。

 イ 紙その他これに類する材料のもので巻いた加熱式たばこ 当該加熱式たばこの重量の0.35gをもって紙巻たばこの1本に換算する方法

 (注)1本当たりの重量が0.35g未満のものについては、当該加熱式たば この1本をもって紙巻たばこの1本に換算することとする。

 ロ 上記イ以外の加熱式たばこ 当該加熱式たばこの重量の0.2gをもって 紙巻たばこの1本に換算する方法

 (注1)品目ごとの1個当たりの重量が4g未満のものについては、当該加熱式たばこの品目ごとの1個をもって紙巻たばこ20本に換算するこ ととする。

 (注2)製造たばことみなされる加熱式たばこの喫煙用具で、上記イに掲げる加熱式たばこと併せて喫煙の用に供されることが明らかなもの等については、(注1)を適用しない。」

 ②上記①の改正は、令和8年4月1日から実施するが、激変緩和等の観点から、その実施時期について次のとおり経過措置を講ずる。

 イ 第一段階 令和8年4月1日

 ロ 第二段階 令和8年10月1日

 ③上記①の改正に係る上記②の実施時期における加熱式たばこの具体的な課税標準は、次のとおり、現行の換算方法により計算した紙巻たばこの本数 (③において「現行の換算本数」という。)及び改正後の換算方法により計算した紙巻たばこの本数(③において「新換算本数」という。)のそれぞれに一定の率を乗じて計算した本数の合計本数とする。」

 ここで表が登場しますが、このブログでは上手く示すことができないので(フォーマットのためです)、少々手直しをしました。わかりにくくなるかもしれないことをお断りしておきます。

          現行の換算方法      改正後の換算方法

現行        現行の換算本数×1.0       ―

改正案 第一段階  現行の換算本数×0.5    新換算本数×0.5

    第二段階      ―         新換算本数×1.0

 「④ 加熱式たばこの課税標準の算定において、重量から除外されるものの範囲を明確化する。

 ⑤ その他所要の措置を講ずる。」

 加熱式たばこは、紙巻きたばこへの換算方法が問題となってきました。そのために何度かの改正が行われてきたのです。さらに課税が強化される方向にあるということでしょう。

 続いて「たばこ税の税率の特例」です。実質的には特例ではないと思われるのですが、とりあえず見ていきましょう。

 「①国のたばこ税の税率を、当分の間、1,000 本につき8,302 円(本則税率:6,802 円)とする。

 (注)上記のほか、特定販売業者以外の者により保税地域から引き取られる製 造たばこに係るたばこ税の税率については、1,000 本につき15,924円(本則税率:14,424 円)とする。

 ②上記①の改正は、令和9年4月1日から実施するが、激変緩和等の観点や 予見可能性への配慮から、税率改正の実施時期について次のとおり経過措置を講ずる。

 イ 第一段階 令和9年4月1日

 ロ 第二段階 令和10年4月1日

 ハ 第三段階 令和11 年4月1日

 ③上記②による税率改正の実施時期における具体的なたばこ税の税率は、1,000 本につき、次のとおりとする。

 イ 第一段階7,302 円(本則税率:6,802 円)

 ロ 第二段階 7,802 円

 ハ 第三段階 8,302 円

 (注上記のほか、特定販売業者以外の者により保税地域から引き取られる製造たばこに係るたばこ税の税率を、1,000本につき、第一段階で14,924円(本則税率:14,424円)に、第二段階で15,424円に、第三段階で15,924円に引き上げる。

 ④手持品課税を実施する。

 ⑤その他所要の措置を講ずる。」

 たばこ税法ではなく、租税特別措置法で定めようとする意図が明確にされています。「本則」とは別の税率などを租税特別措置法や地方税法附則に定めて、特例を廃止して「本則」に戻すことは滅多に行われませんし、いたずらに複雑にする必要もないので、たばこ税法を改正すべきであろうと思うのですが、いかがでしょうか。


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