ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

臨時財政対策債の発行額が零に

2024年12月29日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2025年度予算の案が決まりました。そのような中で、私が気になった記事が、朝日新聞2024年12月26日付朝刊⒋面14版に掲載されていました。「地方自治体の借金 臨時財政対策債 初の発行額ゼロ」という記事です。サイトには「臨時財政対策債、初の発行額ゼロ 地方自治体の借金」(https://digital.asahi.com/articles/DA3S16114476.html)として掲載されています。

 何故目に止まったかといえば、私が地方交付税法や地方税法の研究に取り組んでいるからです。また、臨時財政対策債にはいくつかの問題があるからです〔この点については「地方交付税法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律(平成30年3月31日法律第4号)」、「地方交付税法等の一部を改正する法律(平成31年3月29日法律第5号)」および「地方交付税法等の一部を改正する法律(令和2年3月31日法律第6号)」を御覧ください)。

 2001年度に設けられてから初めて、新規発行額が零になる見通しとのことで、その理由は地方税収が増えたことです。

 12月25日、総務大臣と財務大臣との折衝が行われ、方針が固まったそうです。そして、12月27日、総務省自治財政局が「令和7年度地方財政対策のポイント」および「令和7年度地方財政対策の概要」を公表しました。

 「令和7年度地方財政対策のポイント」には「通常収支分」として次のように書かれています。

 「1 一般財源総額の確保等

 ・一般財源総額(交付団体ベース)を63.8兆円(対前年度比+1.1兆円)確保

 ・地方交付税総額を19.0兆円(対前年度比+0.3兆円)確保」

 一般財源総額は、不交付団体を含めると67.5兆円で、対前年度比+1.8兆円となっており、交付団体ベースで「給与改善費(仮称)」計上分を除いた場合には対前年度比+0.9兆円となります。

 そして、一般財源総額(交付団体ベース)の内訳を見ると、地方税・地方譲与税が48.4兆円で対前年度比+3.0兆円、地方特例交付金等が0.2兆円で対前年度比▲0.9兆円、地方交付税が19.0兆円で対前年度比+0.3兆円、そして臨時財政対策債が0円で対前年度比皆減となっています。

 また、「いわゆる『103万円の壁』に係る令和7年度の地方交付税の減収影響(0.2兆円)を含めても、上記のとおり適切に地方財源を確保」とされています。

 「2 地方財政の健全化

 ・臨時財政対策債は、平成13年度の制度創設以来、初めて新規発行額ゼロ

 ・交付税特別会計借入金について、これまで償還を後年度に繰り延べてきたもののうち、令和6年度までの繰延べ分2.2兆円について、令和7年度に償還」

 余程のことであるということなのか、「初めて新規発行額ゼロ」の部分には太字および下線での強調もなされています。たしかに、臨時財政対策債の新規発行額が零になったことは良いと思われます。地方公共団体の財源不足について国と地方公共団体が「折半」で補塡するもので、元利償還金相当額が基準財政需要額に算入されるものですが、借金であることには変わりがないからです。地方交付税法第6条の3第2項による措置であるとはいえ、根本的な解決とは程遠いものでした。また、令和7年度すなわち2025年度に新規発行額が零となったのは地方税収が増えたことによるのですが、それは2024年度の実績(といっても見込みでしょう)の結果であって、2025年度にどうなるのかわからず、2026年度も新規発行額が零になるとは限りません。ここで、地方交付税法の2019年改正で削除された附則第4条の3(臨時財政特例加算に関する規定)が2020年改正で復活したことを想起すべきでしょう。

 一方、「3 DX、防災・減災対策の推進」の中で「自治体DX・地域社会DXを推進するため、『デジタル活用推進事業費(仮称)』(0.1兆円)を創設(地方財政法の特例を設け、地方債の発行を可能とする)」という部分は気になります。「デジタル活用推進事業費(仮称)」は「令和7年度地方財政対策の概要」のほうに書かれており、次のように書かれています。

 「担い手不足が急速に深刻化するおそれがある中、デジタル技術を活用した行政運営の効率化・地域の課題解決等に向けた取組をしていくため、「デジタル活用推進事業費(仮称)」を創設。地方財政法の特例を設け、情報システムや情報通信機器等の整備財源に活用できるデジタル活用推進事業債(仮称)の発行を可能とする。」

 まず、対象事業は「デジタル活用推進計画(デジタル活用による効率化の効果等を記載)に位置づけて実施する以下の事業」とされており、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律に基づく標準化のために必要な経費を除く」という注意書きも加えられています。その上で、次のように説明されています。(なお、写真などもありますが、その部分は省略します)。

 「(1)行政運営の効率化・住民の利便性向上を図る自治体DXの推進

 ①システムの導入(初期経費)

 ア 住民サービスの提供に必要なシステムの導入

 イ 共同調達によるシステムの導入

 ②情報通信機器等の整備

 ア 住民利用の情報通信機器、住民サービスの提供に必要な職員利用の情報通信機器の購入

 イ 工場施設のネットワーク環境の整備

 (2)地域の課題解決を図る地域社会DXの推進

 地方団体及び公共的団体等による地域の課題解決に資するシステムの導入及び情報通信機器等の整備

 (地域の課題解決)

 ・医療、交通等日常生活に不可欠なサービスの確保

 ・農林水産業、観光など地域産業の生産性向上等

 ※公営企業が実施する事業については、一般会計からの補助を対象とするほか、公営企業債(資金手当)も可能とする。」

 次に、地方財政措置は「地方債充当率:90% 償還年限:5年」、「交付税措置率(地方単独事業):50%」となっています。

 続いて、事業期間は「令和11年度までの5年間」とされており、事業費は1000億円となっています。

 以上は、2024年通常国会(第213回国会)において成立した「地方自治法の一部を改正する法律(令和6年6月26日法律第65号)」を受けて地方自治法に第2編新第11章「情報システム」として第244条の5および第244条の6が追加されたこと、および第2編第16章に第260条の49が追加されたことを受けたものでしょう。これらの規定については、実のところ、私にも意見はありますが、ここでは記さないこととします。ただ、事業費として十分なものなのかという素朴な疑問だけを示しておきます。


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