JR東日本にも赤字の鉄道路線は多く存在します。関東地方、甲信越地方および東北地方に路線網を拡げるJR東日本ですから、或る意味では当然のことでもあります。ただ、ここに来て極端なくらいに輸送密度が低い路線が増えており、いわゆる内部補助によってどうにかできるような状況ではなくなっています。
今回は、北関東の群馬県の話です。朝日新聞社が2024年12月25日10時45分付で「JR吾妻線に並行バス運行なら…高校生ら『利用』7割超 検討会議」(https://www.asahi.com/articles/ASSDS41TTSDSUHNB001M.html)として報じており、「これはもしや?」と思わされたので、紹介しておきます。
吾妻線は、上越線の渋川駅から嬬恋村の大前駅まで、55.3kmの路線です。JR東日本が公表している「路線別ご利用状況(2019~2023年度)」によると、渋川駅から長野原草津口駅までの区間の平均通過人員は1987年度に4506人/日であったのが2023年度に2468人/日まで落ちており、長野原草津口駅から大前駅までの区間の平均通過人員は1987年度に791人/日であったのが2023年度に260人/日となっています。つまり、2023年度の平均通過人員は、渋川駅から長野原草津口駅までの区間で1987年度の約59%、長野原草津口駅から大前駅までの区間で1987年度の約33%にすぎないということになります。少子高齢化、人口減少が大きな要因ではあるものの、それだけはないでしょう。
JR東日本は「ご利用の少ない線区の経営情報(2023年度分)の開示について」も公表しています。吾妻線については長野原草津口駅から大前駅までの区間しか掲載されていませんが(平均通過人員が2000人/日未満の路線・区間を対象としているためです)、それを見ると、かなり厳しい数字が並んでいます。2023年度については、次の通りです。
運賃収入:1700万円。
営業費用:5億1200万円。
収支:4億9400万円の赤字。
営業係数:2870円。
収支率:3.5%。
こうした状況では、JR東日本も存続か廃止かを決定せざるをえないということになるでしょう。
問題の長野原草津口駅から大前駅までの区間について、JR東日本の高崎支社が、2024年12月24日、長野原町役場で検討会議を開いたそうです。この検討会議の場で、高校生およびその家族を対象としたアンケート調査の結果が報告されました。何故、対象者が高校生およびその家族かというと、この区間の主な利用者は高校生であり、およそ8割を占めているからです。つまり、他のローカル線と変わらない訳です。
アンケート調査は、今年の7月から8月にかけて「JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域交通検討会議」が実施したもので、長野原町および嬬恋村に居住する高校生およそ330人およびその家族、県立長野原高校および県立嬬恋高校の在校生およそ80人およびその家族に対して、利用状況、および別の交通手段の利用意向などを尋ねています。
回答率が低く、高校生146人で36%、家族177人で44%にすぎませんが、参考にはなります。主な交通手段は高校生の約8割(回答者の約8割ということでしょう)が鉄道であり、しかも通学に2時間以上をかけている生徒が半数以上になっていました。
このアンケートには、仮に長野原草津口駅から中之条駅や渋川駅までをノンストップで結ぶバスが運行されたら利用するか、という趣旨の設問が入っていたようです。すると「回答者の7割以上が利用する意向を示したことが明らかになった」とのことでした。もう少し厳密に言えば、是非とも利用したい、あるいは「ちょうど良い時間に運行していれば利用してみたい」という回答を合わせると7割以上であったということです。是非とも利用したいという回答と「ちょうど良い時間に運行していれば利用してみたい」という回答は、毛色が多少とも違うのではないかと思われるのですが、いかがでしょうか。
また、検討会議は長野原草津口駅から大前駅までの区間について検討する場のはずですが、何故に長野原草津口駅から中之条駅や渋川駅までをノンストップで結ぶバスを想定し、質問したのでしょうか。意図がわからないという部分もあるのですが、長野原草津口駅から大前駅までの区間が、通勤需要どころか通学需要の面からも見放されているからでしょうか。少なくとも、同区間の廃止が前提となっていなければ、渋川駅から長野原草津口駅までの区間についてノンストップのバスを走らせることなど想定しないでしょう。場合によっては吾妻線の全区間を検討の対象とするのでしょうか。記事には「アンケート結果を受けて、今後は作業部会を設けて交通体系のあり方を協議することになった」と書かれていますので、気になるところです。
もっとも、一つの記事だけではわからないのも当然のことです。注意しなければならない点は多いでしょう。ただ、事情によっては、鉄道路線が高校生の通学需要に合わない、あるいは需要から外されているということなのかもしれません。
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