ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

あまり例を見ない規定

2021年10月15日 00時00分00秒 | 法律学

 2021年10月14日に衆議院が解散されましたが、ほぼ任期満了ということなのに解散とは、どの程度の意味があるのでしょうか。ほぼ無意味に近いのではないでしょうか。まさか、衆議院の任期満了は望ましくないとでも考えられているのでしょうか。

 さて本題。オンデマンド方式の講義が増えたことにより、小課題を作成する機会が増えました。今日も作業を進めていますが、e-Govで国立国会図書館法(昭和23年法律第5号)を見たら、日本ではあまり例を見ない規定があることがわかりました。

 例を見ないと記したのは、規定の構造において、ということです。

 まず、第4条第2項です。これは「館長は、職務の執行上過失がない限り在職する。館長は、政治活動を慎み、政治的理由により罷免されることはない。館長は、両議院の議長の共同提議によつては罷免されることがある。」と定めています。

 一見すると何の変哲もない規定に見えますが、この項では三つの文が一行にまとめられており、実はこれがあまり例を見ないものとなっているのです。

 私も法律学者の端くれですし、地方自治総合研究所の「地方自治立法動向研究」の一員でもありますので、改正法を含めて多くの法律、政令、省令などを参照します。そのため、法律の条文を作成する際のルールは何となくわかってきます。その一つが、条であれ項であれ号であれ、一つの段落は一つか二つの文で構成されるということです。よく前段、後段、本文、ただし書きといいますが、これは二つの文から構成される条文について使う言葉です。三つ以上の文から構成されるのでは前段、後段などという表現を使うことができませんから、ドイツの法律のように第1文、第2文、第3文という言葉を使わざるを得なくなります。

 国立国会図書館法第4条第2項は三つの文により構成されています。そのため、「館長は、職務の執行上過失がない限り在職する」という文を前段ということはできません。第1文と呼称すればよいのでしょうか。

 手元に石毛正純『法制執務詳解』〔新版Ⅲ〕(2020年、ぎょうせい)という本がありますので参照してみました。

 48頁には「一つの条は、通常ワンセンテンスにされるが、二つ以上のセンテンスにされることもある。この場合に、その二つ以上のセンテンスが、条文の段落としての性質を有するときは、それぞれ別行にして書くこととされ、この別行にして書かれた部分を、『項』」という」と書かれています。ついでに記すならば、「項」は段落と考えてよく、日本国憲法の原文や昔の法令を参照すると、現在の法令と異なって項番号が記されておらず(現在も第1項については項番号を書かないのが流儀です)、第二段落が第2項というような形になっています。

 また、50頁には「条文がツーセンテンスから成る場合でも、そのツーセンテンスをそれぞれ別項にするまでもないと考えられるときは、ツーセンテンスを含んだ一つの条又は項とされる。このように、一つの条・項が二つの文章から成る場合には、前の文章を『前段』といい、後の文章を『後段』という。後段は、『この場合において、……』又は「……についても、同様とする」という表現の文章になるものが多い」と書かれています。

 同書の記述からして、一つの条または項は一つの文で書かれることが望ましく、多くても二つの文で書かれることが暗黙のルール(?)となっていることがわかります。勿論、これに拘泥することが望ましいとは思えません。例えば、租税特別措置法の規定は、無理に一つか二つの文に収めようとするためか、一つの文が非常に長く、かっこ書きを多用して税務六法の何十行にもわたる長文もあります。これなら短くして項に分けてもらったほうが理解し易いというものです。

 こういう条文を読むと思い出すことがあります。フランスの哲学書や文学書の訳書に、一つの段落が何頁にもわたるようなものがあり、非常に読みにくいのです。原文がそうであるとしても日本語訳に際しては適宜改行してほしいものです。それと同じようなものが日本の租税法の規定です。

 国立国会図書館法に戻りましょう。第4条第2項は三つの文から構成されることを見ました。館長に関する規定として対照的なのが、国立国会図書館関西館に関する第16条の2です。次のようになっています。

 第16条の2第1項:「中央の図書館に、関西館を置く。」

 同第2項:「関西館の位置及び所掌事務は、館長が定める。」

 同第3項:「関西館に関西館長一人を置き、国立国会図書館の職員のうちから、館長がこれを任命する。」

 同第4項:「関西館長は、館長の命を受けて、関西館の事務を掌理する。」

 仮に関西館が東京の本館と同時期に設置されていたら、関西館に関する規定も第4条第2項と同じような構造となっていたことでしょう。第16条の2のほうが、条文の構造としても読み易いと言えます。

 制定の時期によるのか別の理由によるのかわかりませんが、国立国会図書館法には第4条第2項と同じような構造の規定が他にもあります。私が最初に気付いたのは第9条で、次の通りです。

 「国立国会図書館の副館長は、一人とする。副館長は、館長が両議院の議長の承認を得て、これを任免する。副館長は、図書館事務につき館長を補佐する。館長に事故があるとき、又は館長が欠けたときは、副館長が館長の職務を行う。」

 御覧のように四つの文で構成されています。現在であれば第16条の2のように項に分けるでしょう。例えば、次のようになると思われます。

 第1項:「国立国会図書館の副館長は、一人とする。」

 第2項:「副館長は、館長が両議院の議長の承認を得て、これを任免する。」

 第3項:「副館長は、図書館事務につき館長を補佐する。」

 第4項:「館長に事故があるとき、又は館長が欠けたときは、副館長が館長の職務を行う。」

 続いて第10条第2項です。これは「図書館の職員は、国会議員と兼ねることができない。又、行政若しくは司法の各部門の地位を兼ねることができない。但し、行政又は司法の各部門の支部図書館の館員となることは、これを妨げない。」というものです。三つの文から成り、しかも最後の文が但し書きになっています。「又、」という部分が、いかにも無理をしたようにも見えます。「又、」以降を改行して第3項とし、「図書館の職員は、行政若しくは司法の各部門の地位を兼ねることができない。但し、行政又は司法の各部門の支部図書館の館員となることは、これを妨げない。」とするほうがよかったのではないでしょうか。

 三つの文で構成される条文はまだあります。

 第19条:「行政及び司法の各部門の図書館長は、当該各部門に充分な図書館奉仕を提供しなければならない。当該各図書館長は、その職員を、国会職員法又は国家公務員法若しくは裁判所法の規定により任免することができる。当該各図書館長は、国立国会図書館長の定める規程に従い、図書及びその他の図書館資料を購入その他の方法による受入方を当該各部門の長官若しくは館長に勧告し、又は直接に購入若しくは受入をすることができる。」

 第23条:「館長は、国立国会図書館の収集資料として、図書及びその他の図書館資料を、次章及び第十一章の規定による納入並びに第十一章の二及び第十一章の三の規定による記録によるほか、購入、寄贈、交換、遺贈その他の方法によつて、又は行政及び司法の各部門からの移管によつて収集することができる。行政及び司法の各部門の長官は、その部門においては必ずしも必要としないが、館長が国立国会図書館においての使用には充て得ると認める図書及びその他の図書館資料を国立国会図書館に移管することができる。館長は、国立国会図書館では必ずしも必要としない図書及びその他の図書館資料を、行政若しくは司法の各部門に移管し、又は交換の用に供し、若しくは処分することができる。」

 第19条、第23条のいずれも三つの文から構成されていますが、接続詞もないために文のつながりがあまりよくありません。改行して項立てしたほうがよいものと思われます。

 また、二つの文から構成される条文でも、構成に難があるのではないかと思われるものがあります。例えば第24条の2第1項です。御覧ください。

 「地方公共団体の諸機関により又は地方公共団体の諸機関のため、前条第一項に規定する出版物が発行されたときは、当該機関は、同項に規定する目的のため、館長の定めるところにより、都道府県又は市(特別区を含む。以下同じ。)(これらに準ずる特別地方公共団体を含む。以下同じ。)の機関にあつては五部以下の部数を、町村(これに準ずる特別地方公共団体を含む。以下同じ。)の機関にあつては三部以下の部数を、直ちに国立国会図書館に納入するものとする。」

 下線を引いた部分は、二つのかっこ書きが並べられています。租税法であればかっこ書きの中にかっこ書きを入れるのですが、そのようにもなっていません。。詳しく調べた訳ではないものの、改正の際にいずれかのかっこ書きが追加されたものと見受けられます。特別区は特別地方公共団体の一つであることに鑑みれば、二つのかっこ書きを並存させるのではなく、一つにまとめるべきではないでしょうか。

 難があるということでは、ここにもう一つだけあげておきましょう。第21条第1項です。次のようになっています。

 「国立国会図書館の図書館奉仕は、直接に又は公立その他の図書館を経由して、両議院、委員会及び議員並びに行政及び司法の各部門からの要求を妨げない限り、日本国民がこれを最大限に享受することができるようにしなければならない。この目的のために、館長は次の権能を有する。

 一 館長の定めるところにより、国立国会図書館の収集資料及びインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて閲覧の提供を受けた図書館資料と同等の内容を有する情報を、国立国会図書館の建物内で若しくは図書館相互間の貸出しで、又は複写若しくは展示によつて、一般公衆の使用及び研究の用に供する。かつ、時宜に応じて図書館奉仕の改善上必要と認めるその他の奉仕を提供する。

 二 あらゆる適切な方法により、図書館の組織及び図書館奉仕の改善につき、都道府県の議会その他の地方議会、公務員又は図書館人を援助する。

 三 国立国会図書館で作成した出版物を他の図書館及び個人が、購入しようとする際には、館長の定める価格でこれを売り渡す。

 四 日本の図書館資料資源に関する総合目録並びに全国の図書館資料資源の連係ある使用を実現するために必要な他の目録及び一覧表の作成のために、あらゆる方策を講ずる。」

 ここで柱書きに注目しますと、「最大限に享受することができるようにしなければならない。この目的のために、館長は次の権能を有する」となっています。これも、管見の限りではあまり例がないものです。他の法律の条文であれば、第1項を「最大限に享受することができるようにしなければならない」で終わらせ、改行の上で、第2項として「前項の目的を達するため、館長は次の各号に掲げる権能を有する」と書かれるところでしょう。

 戦後の混乱期に制定された法律であるとはいえ、立法の作法が確立されていなかったとも思えないのですが、いかがでしょうか。


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