インターネットの配信記事によせられるコメントなどを見ても、とかく国会議員は仕事をしない、与党も野党も関係ない、などと非難されます。まあ、そういうことを書いている人の多くは、衆議院のサイトを見たことがないでしょうし、国会中継も生放送で聞いたこともほとんどないでしょう(本当のところはよくわかりませんが)。
衆議院のサイトには、衆議院議員提出法律案、参議院議員提出法律案が掲載されています。そのほとんどは国会で審議されることもなく、閉会中審査か審議未了で終わるかという場合が多いのですが、今回取り上げる法律案は審議未了で終わったものです。衆議院のサイトに掲載されていますが、第201回国会に参議院議員提出法律案の第29号で「新型コロナウイルス感染症等の経済活動への影響に対する対策として消費税の税率を当分の間引き下げるために講ずべき措置に関する法律案」というものです。法律案提出者は日本維新の会の音喜多駿議員(他に1名)です。
名称から明らかであるように、消費税および地方消費税の税率を現在の合計10%から引き下げるという内容のものです。ドイツでは既に期限付きで行われていますが、日本でも、ということでしょう。
(趣旨)
第一条 この法律は、新型コロナウイルス感染症(新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)附則第一条の二第一項に規定する新型コロナウイルス感染症をいう。以下この条において同じ。)及びそのまん延防止のための措置により経済活動が著しく停滞していることに鑑み、新型コロナウイルス感染症に係る事態の収束後における経済状況等を好転させるための対策として、消費税の税率を当分の間引き下げるために講ずべき措置について定めるものとする。
(消費税の税率の引下げに関する特例)
第二条 当分の間、消費税(地方消費税を含む。)の税率を一律に百分の八とするため、消費税の税率を引き下げる等の特例を設けることとし、政府は、このために必要な法制上の措置を速やかに講ずるものとする。この場合において、当該特例を設けることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことのないようにするものとする。
2 前項の特例は、この法律の施行後六月以内を目途として実施されるものとする。
(財源の確保)
第三条 前条第一項の特例が設けられる前の税率による消費税の収入により財源を確保することとされている社会保障給付その他の施策に要する経費については、引き続きその財源が確保されるよう、次に掲げる措置が講ぜられるものとする。
一 国会議員の定数の削減、国会議員の歳費、手当等の削減、行政改革による支出の削減等の歳出の削減を図るために必要な措置
二 国の不要な資産の売却等の歳入の増加を図るために必要な措置
三 前二号に掲げるもののほか、特例公債(財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四条第一項ただし書の規定により発行される公債以外の公債であって、一会計年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、特別の法律に基づき発行されるものをいう。)の発行のために必要な措置
(特例の在り方の検討)
第四条 第二条第一項の特例が実施された後、当該特例の在り方については、国の財政状況、経済情勢等を勘案して検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
具体性には欠けると評価されるでしょう。また、引き下げるとすると財源はどうするのかという問題もあります。法律案の第3条を見ると「やはり」と思わされるものばかりです。わかりやすいのですが、単純に国会議員の定数や歳費などを削減したから財源ができるという訳でもないでしょう。どうも日本では国民代表機関を軽視する、あるいは蔑視する傾向にありますが、それなら国会を廃止すればよいということにもなります。流石にそれは憲法の改正を超えてしまい、日本国憲法を廃止することにつながります。また、定数削減を主張するなら、選挙制度の改革も伴わなければなりません。
定数削減と投票価値の平等を実現するなら、小選挙区制を撤廃し、全国を一選挙区とする比例代表制にするのが最も効果的でしょう。完全に、とは言えませんが選挙での不正も汚職もなくなります。小選挙区制であれ大選挙区制であれ、複数の選挙区を設けるから定数削減をしにくい訳です。日本国憲法は、衆議院議員であれ参議院議員であれ、議員は全国民の代表であると明確に位置づけています。地域の代表でも都道府県の代表でもないのです。この文言に忠実なのが、日本全国を一選挙区とすることです。比例代表制でなくともよいかもしれませんが、現実性ということであれば比例代表制が(相対的に、ではありますが)優れているということにもなります。
さらに、一院制にすることも検討してよいでしょう。これは憲法改正の限界を超えないはずです。もし、限界を超えるという論者が存在するとすれば、大日本帝国憲法に囚われていると言えます。たしか、マッカーサー・ノートでは一院制が主張されており、日本側が抵抗して二院制に落ち着いたという経緯がありました。一院制か二院制かは、国民代表機関たる立法機関の必置には関係ありません。むしろ、二院制であるならば上院と下院との性格が異なるほうが自然でしょう。大日本帝国憲法施行下の衆議院と貴族院とでは性格が全く異なり、貴族院の議員は選挙で選出されていなかったのでした。また、アメリカの上院は各州の代表機関ですし(州といいますが、stateの意味を調べればすぐにわかるように、州は国家です。日本の都道府県とは全く違います)、ドイツの連邦参議院(Bundesrat)も各州代表機関です。最高裁判所の大法廷判決で、日本の参議院には都道府県代表的な性格が与えられているというような趣旨を述べたものもありますが、これは最高裁判所が憲法の意味を変えてしまったようなものです。
一つを変えるなら他のことも変えなければならない。このことを全く理解していない国会議員はいないと考えられますので、わかりやすさが優先したのでしょう。しかし、「わかりやすさほどの落とし穴は他にない」とまでは言えなくとも、わかりやすさを優先することで後々に過大なほどの難解性、晦渋が我々に降りかかることを忘れてはなりません。
付け加えるならば、消費税・地方消費税の税率を削減するという選択をする場合に、まず考えなければならないのは税制なのです。例えば、法人税はこの何年か、あるいは何十年かに税率が引き下げられ続けている上で、租税特別措置によって実質的な負担はかなり軽減されていると評価されます。同じことは所得税にも妥当します。つまり、所得税や法人税には穴が多いのです。課税ベースが狭いとも表現されます。しかも、租税特別措置が多いことによって税制が複雑怪奇になります。だから、税制を見直さなければならないのです。ここを避けるならば、いつまで経っても問題は一向に解決しません。
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