今日は、当初、「答案練習(答練)を、今の法学部に望めるか?」という題で書くこととしていましたが、熊本日日新聞社が1月29日付で「熊本大法科大学院、募集停止へ 16年度で調整」(http://kumanichi.com/news/local/main/20150129002.xhtml)として報じた記事を目にして、変更しました。
あくまでも取材による話であって、熊本大学が公式に発表した訳ではありません。しかも「調整に入った」段階であって、これから議論などを行うことでしょう。
上記記事によれば、熊本大学は2016年度から法科大学院(熊本大学では「大学院法曹養成研究科」)の学生募集を停止する方向を採ったということです。もっとも、継続を望む声も内部で強いようですし、外部でも同様の意見があることでしょう。
しかし、現実的な問題として、募集の継続はかなり難しいと思われます。このように記している私は、既に募集停止を決めている大学に勤務する者ですから、或る程度の予想はできます。
まず、定員割れが続いている状況にあることです。上記記事ではよくわからないところもあるのですが、2004年度には30人だった定員が、2010年度には22人に減らしています。定員割れが続いたことが推測されますが、減じたところで解消できず、2014年には16人に改めています。しかし、それでも入学者が8人しかいなかったようです。
次に、司法試験の合格率も低く、2014年実施の分でみると、熊本大学の合格率は6.98%でした。順位は50位です(2013年には39位。朝日新聞2014年9月10日付朝刊37面14版の「司法試験 合格最低22.5% 10%未満 74校中29校」という記事によります)。国立大学法人が設置する大学の法科大学院では、これより下位にある大学はありません。ちなみに、既に募集停止を決めている静岡大学の法科大学院は10%で45位、やはり募集停止を決めている新潟大学の法科大学院は10.42%で42位です。
2013年度まで、熊本大学の法科大学院を修了した者は158名で、このうち司法試験に合格した者は42名、熊本県内で弁護士登録をしている者は20名ほどです。色々と考えさせられますが、記すことは控えておきます。
既に、九州・沖縄地区では鹿児島大学(2014年の合格率は14.29%で24位でした)、久留米大学(2014年度の合格率は5.26%で59位でした)が2015年度からの募集を停止しています。熊本大学は3校目となりますが、他の4校は、沖縄県にある琉球大学を除けば、九州大学、福岡大学、西南学院大学と、いずれも福岡市にある学校ばかりです。
そして、今年の1月17日に報じられた、法科大学院への補助金の減少です。この日の朝日新聞朝刊37面14版に「法科大学院 42校が補助金減 来年度 52校中、7校は半減」という記事が掲載されており、デジタル版にはその日の5時付で「法科大学院、42校が補助金減 52校中、7校は半減 来年度」(http://digital.asahi.com/articles/DA3S11555157.html)として掲載されました(見出しに52校とあるのは、首都大学東京と大阪市立大学の法科大学院が補助金を受けていないことの他、19校が2015年度までに募集を停止するからです)。2014年9月にランク付け(5段階)したところに基づいて補助金配分額を決めており、次のようになっています(上記朝日新聞1月17日付記事の表を基にして再構成したことをお断りしておきましょう)。
■法科大学院の補助金の増減率
【基礎額算定率】
A(90%)
早稲田大学(45%加算)、一橋大学(40%加算)、東京大学(35%加算)、京都大学(30%加算)、慶應義塾大学(30%加算)、北海道大学(15%加算)、大阪大学(15%加算)、上智大学(10%加算)、名古屋大学(5%加算)、学習院大学(5%加算)、中央大学(3%加算)、東北大学(1%加算)、筑波大学(加算無し)
B(80%)
神戸大学(20%加算)、創価大学(15%加算)、成蹊大学(5%加算)、愛知大学(5%加算)、千葉大学(5%加算)、九州大学(加算無し)、横浜国立大学(加算無し)
C(70%)
同志社大学(35%加算)、岡山大学(24%加算)、琉球大学(15%加算)、立教大学(10%加算)、甲南大学(5%加算)
D(60%)
立命館大学(7.5%加算)、金沢大学(5%加算)、明治大学(5%加算)、広島大学(5%加算)、関西大学(5%加算)、関西学院大学(5%加算)、西南学院大学(5%加算)、青山学院大学(4%加算)、静岡大学(加算無し)、熊本大学(加算無し)、法政大学(加算無し)、神奈川大学(加算無し)、中京大学(加算無し)、南山大学(加算無し)、近畿大学(加算無し)、日本大学(改革案提案無し/加算無し)、山梨学院大学(改革案提案無し/加算無し)、東洋大学(改革案提案無し/加算無し)、名城大学(改革案提案無し/加算無し)、福岡大学(改革案提案無し/加算無し)
E(50%)
北海学園大学(加算無し)、京都産業大学(加算無し)、國學院大學(改革案提案無し/加算無し)、駒澤大学(改革案提案無し/加算無し)、専修大学(改革案提案無し/加算無し)、桐蔭横浜大学(改革案提案無し/加算無し)、愛知学院大学(改革案提案無し/加算無し)
以上のうち、D段階では静岡大学および東洋大学が、E段階では愛知学院大学が既に募集停止を正式に表明していることに注意してください。
熊本大学はD段階にあります。つまり、静岡大学および東洋大学と同位置にあるのです。4割も減らされるとなれば、人件費などの面で大きな支障が生ずることは目に見えていることでしょう。まして、今後、法科大学院全体を見渡しても、受験者数が増加するとは思えませんし、いかに少人数教育が重要であるとは言っても、入学者が少なすぎるのでは少人数教育の負の部分ばかりが浮かび上がることになりかねません(そもそも、少人数教育の効果には幻想を抱かれている部分もあります)。おそらく、首都圏、京阪神地区の一部(それも、大部分は旧司法試験時代に合格者数で実績を出しているところ)に集中することとなるでしょう。
学内での検討の結果がどうなるかはわかりません。募集停止となるかもしれませんし、とりあえずは継続するということになるかもしれません。しかし、継続するならば、少なくとも合格率を法科大学院全体の平均レヴェルにまで上昇させる必要があります。そう簡単にできる話であるとも思えません。進むべき方向は明らかであると言えるでしょう。
考えてみると、既に法学部、法学研究科があるのに、とくに法学部をどのように位置づけるのかという問題をろくに検討しないまま法科大学院をスタートさせたことに、相当の無理がありました。そのため、法学部や法学研究科における教育・研究にも深刻な影響が出ています。答案練習(答練)もそうです。私も2009年度から大東文化大学の大学院法務研究科の講義を一つだけ担当しましたが、未修コースでも3年間しかなく、これでどれだけの教育を詰め込むのかと疑問に思うことがありました。
勿論、従来からの法学部や法学研究科に問題がないとは言いません。そのことは前提としても、なお、法科大学院の設計にはおかしいところがあったと認めざるをえないでしょう。学部でコース制をとれば、法学部を卒業したのに民事訴訟法、刑事訴訟法のどちらか、場合によってはそのいずれもを履修していない学生がいます。商法(会社法、手形法、小切手法なども含む)もそうです。コースがそのようになっているからです。これでは法科大学院との連携も何も、根本的にできません。
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