世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

そして彼女はいなくなった

2007年03月03日 | 
彼女は、ある日フラッと予告もなく僕の前に姿を見せた。

小柄な身体に、茶髪、涙目をした大きな黒い瞳が印象的だった。
じっと僕を見つめ、恥ずかしそうに微笑んだ。

彼女は、次の日もやってきた。
そして、また次の日も、次の日も・・・・・・

僕は、食事を彼女とシェアーした。
それから、彼女は僕のそばを離れなくなった。
と言っても、ただそこにいるだけの存在なのだが。
彼女は、あくまでも控えめだった。
  何かを要求するでもなく。
僕と目があうと、いつも嬉しそうに微笑んだ。

お互い束縛はしなかった。

数ヶ月が幸せに過ぎた。
その間、僕は彼女の異変に気づいていた。

いつまでも彼女を中途半端な状態で、僕の元においておくわけにはいかない。

とうとう僕は、意を決し、別れ話を持ちかけ、近くの町まで送っていった。
車から降りると、彼女は悲しい目でじっと僕を見つめた。
   大きな瞳に、うっすらと涙を浮かべて。

「さようなら。元気で、幸せになれよ」
僕の突き放すような言葉に、彼女は寂しそうに黙って見送っていた。
後ろ髪を惹かれる思いで、僕はただ、ルームミラーから遠ざかる彼女を見ていた。
   そして思い切るように、アクセルを踏み込んだ。

数日後、彼女はひっそりと僕の元に戻ってきた。
申し訳そうな表情の中に、いつもの嬉しそうなはにかんだ笑みを満面に湛えながら。
   きっと心のどこかで、僕もそのことを期待していた。
その無邪気な仕草に、たまらず僕は思いっきり彼女を抱きしめた。
   罪悪感とともに。

それからしばらくすると、彼女は子供を出産した。
もちろん僕の子ではない。
   父親は分からない。

彼女は、献身的に子供を育てた。
しかし、これ以上僕にはどうすることも出来なかった。
仕方なく里子に出すことに、彼女はしぶしぶ同意した。

それからはまたしばらく、何事もなかったかのように平穏な時が流れた。
   彼女は、いつもただ僕に寄り添うだけで。

ある日、外出から戻ると、そこには彼女の姿はなかった。

               彼女とは・・・・・・?