横顔にどこか翳りを醸しだしていた。
確かに、表情の一辺に影が見られたが、
最初はそれは誰もが持つ暗さのように感じた。
彼女と初めて出会った時、
その沈んだ表情だけが印象に残った。
たまたまあるパーティのカウンターで隣り合わせただけで、
一言二言言葉を交わすだけで終わった。
お互い名乗ったが、彼女の名前すら記憶にとどまらないほど、
彼女は負のオーラを全身に纏っていた。
まるですべての訪問者を拒絶するかのように。
その約一か月後、
別のパーティで再会した。
パーティ会場の入口近くでビールを注文し、
ボクはしばらくホールの中央で踊る人たちを物憂げに眺めていた。
その時、グラスを片手に踊る小柄な女性と目があった。
彼女はボクを見てにっこり笑った。
一瞬、時間が止まったかのように感じた。
ステージのスポットライトが彼女だけを浮かび上がらせているかのように
彼女は光り輝いて見えた。
どちらからともなく歩み寄り、軽くハグをして再会を確かめ合った。
彼女はボクの手を引き、カウンターのワインを注いでくれた。
彼女は終始にこやかで、
あの時の彼女とはまるで別人かと思わせるほど輝きを放っていた。
ぼく達はグラスを持ったまま、ホール中央でスローなリズムに合わせて踊った。
次の日、ぼく達はこじゃれたレストランバーのカウンター席に並んでいた。
そこで彼女の意外な一面を知ることになる。
数か月前、彼女はその時付き合っていた彼氏を事故で亡くしていた。
そのショックでウツになり、薬漬けの日々を送っていた。
安定剤と睡眠薬を含め、8種類の薬を飲んでるという。
自殺さえも考えたらしい。
彼女は大きな瞳から静かに涙を流しながらポツポツと語った。
辛い思いを引きずりながら必死で耐えている姿がなんとも痛ましかった。
ボクの彼女に対して翳りを感じた第一印象は、あながち間違いではなかったのだ。
ボクに愛が芽生えたのはその瞬間だったのかもしれない。
彼女を救いたいという気持ちが沸々を湧き上がってきた。
彼女の笑顔はとても素敵で、ボクを魅了するのに十分だった。
その笑顔を取り戻してあげたいと思った。
それからボクはできるだけ彼女の側にいることにした。
彼女の手を握り、時にキスをする。
それでも彼女は時々ボクの胸に顔をうずめて涙を流す。
死んだ彼を思う切ない涙なのかもしれない。
それがいつの日か、喜びの涙に変わっていく日が来るのだろうか。
ボクの胸で眠るとき、
彼女の睡眠薬はいらなくなった。
安心しきった寝顔がボクの心も癒してくれる。
ボクの腕の中で彼女の静かな寝息を聞きながら、
ボクが彼女の薬になれる日もそう遠くない気がしていた。