英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

王将戦第1局 先崎八段の解説など ②

2010-02-02 22:14:21 | 将棋
 第4図は、羽生名人が△7三桂と跳ねたところ。ここでの久保棋王の一手には驚いた。



 ▲6五歩!
 桂を使うぞと△7三桂と跳ねたところへ、跳ねてこいと▲6五歩。これに対し直ちに△6五同桂は▲6六歩で先手良しだが、わざわざ後手の桂を活用しやすくさせなくてもと思ってしまう。
 先崎解説も「ここは▲2八玉ととした方が手としては正しいと思うんだけど、久保さんの勢いを見る思いがします」
 実戦は△5四飛に▲5六歩。この手は▲6五歩の継続手だが、後手の駒を呼び込む上、玉のコビンを開けるので勇気のいる手だ。こういった手をタイトル戦で、しかも羽生名人を相手に指すのだから、久保棋王の充実ぶりがうかがえる。
 実際、▲5六歩に△同銀▲2二角成△同銀▲5五歩△同飛▲6四角△5四飛▲7三角成(第5図)と進むと、先手の桂得(正確には桂と歩2枚の交換)のうえ、後手の2二の銀の離れ駒プラス壁銀プラス後手玉が戦場に近い点などが大きそう。手番は後手、先手の歩切れという要素はあるが、先手がよいだろう。
 先崎解説はもっと断定的だった。「桂得で馬作ったんですから、はっきり先手が良いんですね。過激に言ったら『これで終わり』と。ただ、ここから羽生さんが妖しく迫るんで、なかなかのものでした」
 羽生名人は感想戦で「(第4図の)△7三桂では△3二玉だったか」と述べている。



 第5図以下、△7五歩(取ると△6六角の王手飛車)▲7七飛(第6図)と進む。ここが問題の局面。
 羽生名人の指し手は△6七歩。
 中継解説記事「この手は見えませんでしたね。遊び駒の金銀にはたらきかける手ですから。正直申し上げて、常識外ですね。いきなりやってきたんですね。なんで(△6五銀と)引かなかったんだろう。驚きましたね。10人プロがいて、10人とも考えない手、『あれ?』と首をかしげる手だと思います。しかし羽生さんは、プロが想定外の手を指して勝ってきた人ですからね」(阿部八段) 
 先崎解説は「7八の金を手順に使わせる手ですから、うれしくないですが、そんなことは百も承知で紛れを求めたんです。はっきり(後手が)苦しいです。馬が大き過ぎます」
 というように、指したくない手のはず。

 控室の研究では△6五銀を予想していて、羽生名人の指し手を訝しがっていた。先崎八段も「△6七歩では、やはり△6五銀の方がよかった」と。
 第5図の局面、羽生名人は「△6五銀は▲9一馬△6六銀▲5九香△4四飛▲6五桂△3三銀▲2八玉で後手がよくはない」と。

 羽生名人は局面を「点で考える」という。将棋の流れを重視しない、つまり、1手前、あるいは数手前に指した手を生かすことにこだわらず、常に新しい目で最善手を求めると。この考え方を拡張した「常識(セオリー)にとらわれない。常識を疑う」という将棋観があるのではないか。

 さて、先崎八段の解説で、「△6七歩では△6五銀の方がいいが、▲4六桂△4四飛に▲5五馬(参考図)が厳しい」とあるが、



これには△6六角と切り返す手がある。
 ▲6六同角△同銀は馬が消えたうえに飛車取り。また、△6六角に▲5七飛も△5五角▲同飛△6六角がある。後手も玉型や飛車の位置が悪く容易ではないが、先手が選ぶ変化ではないだろう。


 第5図から△6七歩▲同金△同銀成▲同飛△8八角▲6四歩(第6図)と進む。



 ここで羽生名人は△6二歩。つらい辛抱で、誰もが△6六歩と勝負したくなるはずだ。
 しかし、△6六歩と打つと、
中継解説「▲5七飛△同飛成▲同銀△6七歩成▲6三歩成△5七と▲5二と△同金▲6四桂が進行の一例で、「これは明快に先手勝ちです」(阿部八段)。となれば、現局面はやはり、先手がはっきりよさそうだ」
先崎解説「▲5七飛△同飛成▲同銀△6七歩成▲6三歩成△5七とでは5七とが詰めろでないので、▲5二と△同金▲6四桂ではっきり1手負けです」

 なので、名人は辛抱したのだ。
 先崎八段は「はっきり言って負けじゃあしょうがないんで、こっち(△6二歩)受けて辛抱したんだけど、でも、これ勝負手として、ここ(△6六歩)に打たなきゃ形にならないから、これ(△6二歩)じゃダメ、負けなんです」と△6二歩を評価。

 (ここからは私の想像ですが)
 もし、感想戦で先崎八段が上の言葉を言ったら、羽生名人は「ええ…まあ、そうですねぇ。つらいですよねぇ。まあ…ええ…でも、しょうがないかと…」と苦笑しながら答えるのではないかと。
 将棋としてはそう指したいのだけど、第6図では△6二歩が最善手で形勢に差がつかない。これでまだまだ難しく、逆転の可能性が最も高い手と判断したはず。
 セオリーや常識と離れて、局面を点で捉える羽生名人らしい着手ではないだろうか。いや、羽生名人だけでなく、タイトルを争う棋士なら当然の判断といえるのではないだろうか。
コメント (4)
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