(『藤井四段の29連勝に思う その1「要因」』の続きです)
世間であれだけ騒がれると、それに乗せられないように、連勝風景を横目で“チラ観”するに留めていた。忙しかったこともあるが、天邪鬼なのである。それでも、さすがに記録更新の一局は“ガン観”であった。
前局・28戦目の澤田六段、本局の増田四段、そして、次局の佐々木五段と難敵が続く。
増田四段は藤井四段が誕生するまでは最年少棋士(現在、10代棋士は両対局者のみ)。
独自の棋理による主張を基に、固定概念や形に囚われない。読みが深く、“強い将棋”という印象がある。非公式戦ではあるが、「炎の7番勝負」で対局し、敗れている。本局には期するものがあるようだ。
昨年度の新人王優勝。通算成績は82勝34敗(勝率0.707)。昨年度成績は34勝16敗(0.680)。本年度成績は8勝3敗(0.727)。

角換わり腰掛け銀の出だしから、後手の増田四段が角道を止め、角交換を拒否。
これに対し先手の藤井四段は、3七銀と早繰り銀を選択し、▲3五歩と突っ掛け戦端を開く。
増田四段の陣立ても独特。「矢倉は戦法としては終わっている」というような発言をしていたらしいが、その言葉通り銀を4三に配し、雁木で迎え撃つ。雁木の定義は割と曖昧で、4三銀・5三銀・3二金・5二金型が基本形だが、5三の銀がいない形でも雁木と呼ばれる。私は、この基本形の雁木に美しさを感じる。居角のままで角も攻撃に参加でき、柔軟かつ破壊力も備えているので、よく採用する。しかし、5三の銀は攻め駒で、場合によっては5二の金も出撃。つまり、戦いが進むにつれどんどん薄くなり、玉も4一に居るため反撃を食らいやすい。
その上、ゆっくりしていると、薄い2筋を突破されてしまう……………けっこう辛い思い出が多いように思う。
それはともかく、△6二銀より△5二金右を優先させたのは、先手からの急攻を意識しており(6二銀型は壁形)、第1図は想定した局面と思われる。棋譜中継解説には、先後の違い(先手番で後手の陣形なので端歩を突いた1四歩型、5二金に代えて6二銀となった将棋を経験しているとのこと。
▲3五歩△同歩▲4六銀に、△3六歩とすれ違いの手筋で応じる。
以下▲2六飛△4二角に▲2四歩△同歩▲3五銀と進んだのが第2図。この辺りは他にも指し方があるらしい。例えば△4二角では△4五歩と真っ向から迎え撃つ手も有力だったようだ。

本譜の△4二角は△8六歩と飛車先の歩や角交換を見た手ではあるが、その先には、先手の早繰銀に対する側面攻撃を目論んでいた。
第2図以下、△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲8七歩に△8五飛と引く(第3図)。

第3図の△8五飛では、△8二飛や△7六飛なども有力だった。△8五飛は先手の3五の銀取りだが、▲2四銀を促しておいて△2五歩と飛車の横利きで△2五歩と先手の飛車を押さえるのが真の狙い。
さらに増田四段は、▲3六飛に△2七角と打ち込む。(第4図)
先手の早繰銀からの攻勢に対し、側面から反撃。手順を尽くしたカウンターだ。
△2七角は飛車銀両取りだが、▲3九飛(第5図)で一応受かっている。

第5図、攻め好きな人は、ある攻め筋が頭に浮かぶのではないだろうか?
「その3」に続く
世間であれだけ騒がれると、それに乗せられないように、連勝風景を横目で“チラ観”するに留めていた。忙しかったこともあるが、天邪鬼なのである。それでも、さすがに記録更新の一局は“ガン観”であった。
前局・28戦目の澤田六段、本局の増田四段、そして、次局の佐々木五段と難敵が続く。
増田四段は藤井四段が誕生するまでは最年少棋士(現在、10代棋士は両対局者のみ)。
独自の棋理による主張を基に、固定概念や形に囚われない。読みが深く、“強い将棋”という印象がある。非公式戦ではあるが、「炎の7番勝負」で対局し、敗れている。本局には期するものがあるようだ。
昨年度の新人王優勝。通算成績は82勝34敗(勝率0.707)。昨年度成績は34勝16敗(0.680)。本年度成績は8勝3敗(0.727)。

角換わり腰掛け銀の出だしから、後手の増田四段が角道を止め、角交換を拒否。
これに対し先手の藤井四段は、3七銀と早繰り銀を選択し、▲3五歩と突っ掛け戦端を開く。
増田四段の陣立ても独特。「矢倉は戦法としては終わっている」というような発言をしていたらしいが、その言葉通り銀を4三に配し、雁木で迎え撃つ。雁木の定義は割と曖昧で、4三銀・5三銀・3二金・5二金型が基本形だが、5三の銀がいない形でも雁木と呼ばれる。私は、この基本形の雁木に美しさを感じる。居角のままで角も攻撃に参加でき、柔軟かつ破壊力も備えているので、よく採用する。しかし、5三の銀は攻め駒で、場合によっては5二の金も出撃。つまり、戦いが進むにつれどんどん薄くなり、玉も4一に居るため反撃を食らいやすい。
その上、ゆっくりしていると、薄い2筋を突破されてしまう……………けっこう辛い思い出が多いように思う。
それはともかく、△6二銀より△5二金右を優先させたのは、先手からの急攻を意識しており(6二銀型は壁形)、第1図は想定した局面と思われる。棋譜中継解説には、先後の違い(先手番で後手の陣形なので端歩を突いた1四歩型、5二金に代えて6二銀となった将棋を経験しているとのこと。
▲3五歩△同歩▲4六銀に、△3六歩とすれ違いの手筋で応じる。
以下▲2六飛△4二角に▲2四歩△同歩▲3五銀と進んだのが第2図。この辺りは他にも指し方があるらしい。例えば△4二角では△4五歩と真っ向から迎え撃つ手も有力だったようだ。

本譜の△4二角は△8六歩と飛車先の歩や角交換を見た手ではあるが、その先には、先手の早繰銀に対する側面攻撃を目論んでいた。
第2図以下、△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲8七歩に△8五飛と引く(第3図)。

第3図の△8五飛では、△8二飛や△7六飛なども有力だった。△8五飛は先手の3五の銀取りだが、▲2四銀を促しておいて△2五歩と飛車の横利きで△2五歩と先手の飛車を押さえるのが真の狙い。
さらに増田四段は、▲3六飛に△2七角と打ち込む。(第4図)

先手の早繰銀からの攻勢に対し、側面から反撃。手順を尽くしたカウンターだ。
△2七角は飛車銀両取りだが、▲3九飛(第5図)で一応受かっている。

第5図、攻め好きな人は、ある攻め筋が頭に浮かぶのではないだろうか?
「その3」に続く