(『藤井四段の29連勝に思う』 その1「要因」、その2「対 増田四段戦①」の続きです)
図は△2七角に対し3六の飛を3九に引いて、飛車金両取りを受けたところ。
ここで、角を切って飛車を召し上げる手が見える(△4九角成▲同飛△3八金)。
いわゆる俗手で、先に角金交換の駒損をするので、金で飛車を取っても、実質は飛車角交換である。しかも、その結果、先手は角と金を手駒に加わることになるので、感触はよくない。
実際、角を切らずに△2六歩と力を溜め、次に△4九角成▲同飛に△2七歩成を目指した方が良かったという感想がある。
ただ、ここまでの手の流れ(一旦、角を4二に引いたあと、8六で角交換を果たし、その足で飛車を8五に引いて銀取りで先手を取り角を打ちこむ)からすると、角切りに手が動くところだろう。
ともあれ、△4九角成▲同飛△3八金▲5九飛△4八金と飛車を詰める。
第6図、確かに上述の感触の悪さはあるが、飛車を排除することで斬り込んできた2四の銀は後押しを失い、脅威を感じない(5一の玉からも距離がある)。また、先手の持ち駒の2枚の角も有効な使い道がなさそうだ。
対して、後手は飛車を打ち込めば先手の桂香を拾えそう。それに、いつでも好きな時に飛車を取ることができる。また、8五飛の潜在能力も期待できる(二段目に飛車の利きが通っているときに、△8七飛成が決め手となれば理想)。
控室では「互角」「意外に先手も指せる」「後手が指せそう」と判断が分かれていたが、総じてやや「後手を持ちたい」棋士が多かったようだ。
第6図より、▲2二歩△同金を利かして、▲7七桂と飛車取りに跳ねたのが第7図。
8九に飛車の打たれるマイナスがあるが、プロ的には8九に飛車を打ちこむのはイモ筋らしい。8九は現在8筋にいる飛車が進む場所であるべきというのだ。
それはともかく、△8二飛に▲6五桂で、第6図よりほぼ1手で8九の桂が6五に跳ねたことになる(8二に引いた飛車が後手玉の守りに働く可能性もあるが)。
第7図になってみると、▲3一角の手段が生じており、5三の地点の薄みが露わになってきた。
そこで、△6二銀と薄みをカバーするが、▲7五角と打たれてみると、5三を狙いつつ▲3一角成を見られて、なんだか雲行きがおかしい。
幸い5三に打ち込むのに適した駒がない(角しかない)ので、▲3一角成を防いで△3二金と寄ったが……再度の▲2二歩!
△2二同金は▲3一角成とされてしまうし、3二に戻したばかりの金を再び2二に追いやられるのは悔しい。
そこで、△3三桂と逃げたが、こうなってみると、「2一にと金ができそう」「取り残されそうだった2四の銀が少なくとも桂と交換できる」というプラスの見通しが増えてきた。
藤井四段は▲3三銀成△同金を決めてから▲1五角を放つ。
▲1五角は3三と4八の金の両取り。後手は好きな時に飛車を取れば良いはずだったが、強制的に取らされてしまった感がある。頭の丸い駒しかなかった先手だったが、手順に金を持駒に加えることができた。
さらに、3三の金取りが残っているので、△3二銀と手を戻さなければならず、手番は藤井四段に。第6図以降、ずっと藤井四段だけが好きな手を指している。さらに▲5三桂打と畳み掛ける。
打ち込んだ駒が桂なので、一見、緩く思われたが、▲3三角成△同銀▲4一金の詰めろ。
玉の可動範囲を広げ、角切りに備えて3三の地点をフォローした△4三金上と受けたが、玉の近衛兵として守っていた5二の金が4三に離れていくのは正調とは思えない。
▲2一歩成!…△4三金を横目に見ながら、2二の歩が“と金”に昇格。
第11図。先手は2枚の角と2枚の桂と歩(と金)で後手玉を包囲。角と桂と歩だけでは玉を寄せるのは難しいはずなのだが………しかも、持駒に金を保有している。
増田四段も≪こんなはずでは……?≫と思っていたのではないだろうか?(感想戦では、△4九角成では△2六歩、最初の▲2二歩に対しては△3三桂、2度目の▲2二歩に対しては△6四歩と指した方がよかったとされた)
以下、第12図の△6八歩など惑わす手を繰り出すが、藤井四段は正確に指し続け、着実にリードを広げていった。
この将棋、おそらく中盤では増田四段がリードをしていたはずだ。
そこからの藤井四段の指し回しが素晴らしく、あれよあれよと思う間に並びかけ、抜き去さってしまった。
古い話になるが、『ビートたけしのスポーツ大将』のカール君が、挑戦者を抜き去った後、一気に置き去りにしたシーンを思い出してしまった。
強い!
【終】
図は△2七角に対し3六の飛を3九に引いて、飛車金両取りを受けたところ。
ここで、角を切って飛車を召し上げる手が見える(△4九角成▲同飛△3八金)。
いわゆる俗手で、先に角金交換の駒損をするので、金で飛車を取っても、実質は飛車角交換である。しかも、その結果、先手は角と金を手駒に加わることになるので、感触はよくない。
実際、角を切らずに△2六歩と力を溜め、次に△4九角成▲同飛に△2七歩成を目指した方が良かったという感想がある。
ただ、ここまでの手の流れ(一旦、角を4二に引いたあと、8六で角交換を果たし、その足で飛車を8五に引いて銀取りで先手を取り角を打ちこむ)からすると、角切りに手が動くところだろう。
ともあれ、△4九角成▲同飛△3八金▲5九飛△4八金と飛車を詰める。
第6図、確かに上述の感触の悪さはあるが、飛車を排除することで斬り込んできた2四の銀は後押しを失い、脅威を感じない(5一の玉からも距離がある)。また、先手の持ち駒の2枚の角も有効な使い道がなさそうだ。
対して、後手は飛車を打ち込めば先手の桂香を拾えそう。それに、いつでも好きな時に飛車を取ることができる。また、8五飛の潜在能力も期待できる(二段目に飛車の利きが通っているときに、△8七飛成が決め手となれば理想)。
控室では「互角」「意外に先手も指せる」「後手が指せそう」と判断が分かれていたが、総じてやや「後手を持ちたい」棋士が多かったようだ。
第6図より、▲2二歩△同金を利かして、▲7七桂と飛車取りに跳ねたのが第7図。
8九に飛車の打たれるマイナスがあるが、プロ的には8九に飛車を打ちこむのはイモ筋らしい。8九は現在8筋にいる飛車が進む場所であるべきというのだ。
それはともかく、△8二飛に▲6五桂で、第6図よりほぼ1手で8九の桂が6五に跳ねたことになる(8二に引いた飛車が後手玉の守りに働く可能性もあるが)。
第7図になってみると、▲3一角の手段が生じており、5三の地点の薄みが露わになってきた。
そこで、△6二銀と薄みをカバーするが、▲7五角と打たれてみると、5三を狙いつつ▲3一角成を見られて、なんだか雲行きがおかしい。
幸い5三に打ち込むのに適した駒がない(角しかない)ので、▲3一角成を防いで△3二金と寄ったが……再度の▲2二歩!
△2二同金は▲3一角成とされてしまうし、3二に戻したばかりの金を再び2二に追いやられるのは悔しい。
そこで、△3三桂と逃げたが、こうなってみると、「2一にと金ができそう」「取り残されそうだった2四の銀が少なくとも桂と交換できる」というプラスの見通しが増えてきた。
藤井四段は▲3三銀成△同金を決めてから▲1五角を放つ。
▲1五角は3三と4八の金の両取り。後手は好きな時に飛車を取れば良いはずだったが、強制的に取らされてしまった感がある。頭の丸い駒しかなかった先手だったが、手順に金を持駒に加えることができた。
さらに、3三の金取りが残っているので、△3二銀と手を戻さなければならず、手番は藤井四段に。第6図以降、ずっと藤井四段だけが好きな手を指している。さらに▲5三桂打と畳み掛ける。
打ち込んだ駒が桂なので、一見、緩く思われたが、▲3三角成△同銀▲4一金の詰めろ。
玉の可動範囲を広げ、角切りに備えて3三の地点をフォローした△4三金上と受けたが、玉の近衛兵として守っていた5二の金が4三に離れていくのは正調とは思えない。
▲2一歩成!…△4三金を横目に見ながら、2二の歩が“と金”に昇格。
第11図。先手は2枚の角と2枚の桂と歩(と金)で後手玉を包囲。角と桂と歩だけでは玉を寄せるのは難しいはずなのだが………しかも、持駒に金を保有している。
増田四段も≪こんなはずでは……?≫と思っていたのではないだろうか?(感想戦では、△4九角成では△2六歩、最初の▲2二歩に対しては△3三桂、2度目の▲2二歩に対しては△6四歩と指した方がよかったとされた)
以下、第12図の△6八歩など惑わす手を繰り出すが、藤井四段は正確に指し続け、着実にリードを広げていった。
この将棋、おそらく中盤では増田四段がリードをしていたはずだ。
そこからの藤井四段の指し回しが素晴らしく、あれよあれよと思う間に並びかけ、抜き去さってしまった。
古い話になるが、『ビートたけしのスポーツ大将』のカール君が、挑戦者を抜き去った後、一気に置き去りにしたシーンを思い出してしまった。
強い!
【終】