英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2020 竜王戦 第1局

2020-10-11 20:09:18 | 将棋
いいところが全然なかった……

 最後まで双方居玉で、強気の激しい攻防…と言えるが、羽生九段の指し手に余裕がないというか、急かされているというか……



 第1図……超初心者のような桂跳ね。……やたら桂を跳ねたがる将棋を覚えたての初心者。


 △6五桂の銀取りを放置して、▲2四角と2筋突破と角交換を挑むが、▲6六銀と躱しておくのが普通。後手から8筋の飛車先交換、更に、△7六飛と横歩を取る筋もちらつくが、後手の攻めは、飛角桂だけの前のめり気味の攻めなので、“受けて立つ”姿勢でよいのではないか。
 直前の▲7九角の39分考慮中に、▲2四角以降の進展に見通しを立てて強気で行く》と決めたのだろうが、形勢はともかく、どこか急いでいるように思えてしまう。《強気の受け》でも良かった。
 確か、△6五桂には▲6六銀△8六歩▲同歩△同飛▲8八歩と8八に歩を受けるのが定跡だとか【ABEMA、阿久津八段解説】。


 封じ手の局面。
「なんと▲3三角成を受けない。取ってこいといっている。▲3三角成を指してきたら、△4二銀打▲同馬△同玉▲2七飛△8九角と反撃されて、先手が大変のようだ。
▲5五角に△4五桂▲1一角成△2七歩の進行は、▲1八飛などと辛抱される恐れがあった。この△2七歩に▲同飛なら、そこで△4五桂で後手が少し得とみている。長考で放ったギリギリの利かし。▲2七同飛△4五桂に▲5八金△5七銀▲6九桂△8六歩▲同歩△5八銀成▲同玉△8六飛▲8七歩△7六飛という進行が検討の手順」【中継サイトの解説】

 豊島竜王も終局後、「▲5五角に△4五桂▲1一角成△2七歩は飛車を横にかわされる手があるので(先に叩いた)」と述べていた。
 この封じ手の局面は、ABEMAの評価値、巷の評価値サイトでは、ほぼ互角のことだが、何となく、何となく、先手陣に隙間が多く、守勢になりそうな気がした。

 少し戻って、直前の▲5五角は、▲3三角成の桂取り、桂が逃げた時は香を取る▲1一角成、更に場合によっては▲6四角も見ており、含みの多い味のある角打ちで羽生九段好みの角打ちだが、控室では▲2一飛成(変化図1)が有力と見られていた。以下△8六歩▲同歩△同飛▲6三桂△6一玉▲7一桂成△同玉▲8七歩△7六飛▲5八金といった進行を調べていていたようだ。手順中▲6三桂に△同金は▲9五角の王手飛車がある。
 直前に▲3三角成△同桂と桂を跳ねさせているので、▲2一飛成は空成りになり、少々気が利かないが、やはり、敵陣に龍ができるのは大きい気し、上記の手順に進むのなら、先手もまずまずだ。
 佐藤九段も「佐藤康九段は後手が居玉だと、△4五桂から△5七桂成としても▲2四角の王手成桂取りがあると指摘。鈴木九段は▲2一飛成に△8六歩▲同歩△同飛と攻めると、▲6三桂(△同金は▲9五角で王手飛車取り)の筋が気になる」と言っている。
 こう考えると、第3図より△7七角成▲同玉に△6二金では、△5二玉(前例があるらしい)の方が良かったかもしれない。

 ところで、この▲2一飛成が価値が大きい手だとすると、封じ手局面の△2七歩は少し不思議な感じがする。このタイミングでの△2七歩は上述した理由だが、後に▲2一飛成とされた場合、△2七歩は歩を先手に渡しただけの余分な手となってしまうからだ。
 しかし、△2七歩▲同飛△4五桂と進んだ局面は、△4五桂と跳ねた手が大きく、▲2一飛成は甘い一着となってしまう。
 なので、▲1一角成と香を取る。この手は▲5五角と桂取りに打って、その桂に4五に逃げられたからには、▲1一角成と指すのが手の流れで当然の一着に思われるが、どうも、敗着となってしまったようだ。
 いや、この▲1一角成を敗着と断定するのは乱暴すぎで、まだ形勢が大きく傾いたわけではなく、実際、この後も挽回するチャンスは何度かあった。
 ただ、第3図から第5図の手の交換は、後手がかなり得をしているように思えてならない。

 第3図から、▲3三角成△同桂の角交換で手順に桂が跳ね、▲5五角の桂取りを躱しながら4五に跳ねる(桂を跳ねる前に△2七歩▲同飛を利かしている)。第3図と第5図の違いは、後手は2一の桂が4五にワープしているのに対し、先手は5五の角の設置と飛車が2七に移動(これはマイナス要素)、後手の持ち歩が先手に移動し後手は歩切れとなっている。
 後手の歩切れもかなりのマイナス要素だが、とにかく、4五の桂の存在が大きい。先手の2七の飛車の位置も相当悪い。
この後も、この飛車は”でくのぼう”状態だった。封じ手局面の豊島竜王の△2七歩は絶妙だった。逆に、銀桂交換を甘受してまで▲2四歩からの角交換と▲5五角の構想は芳しくなかったように思うのである。

 繰り返しになるが、▲5五角と桂取りに打って、その桂に4五に逃げられたからには、▲1一角成と指すのが手の流れなのだが、第5図では、▲1一角成ではなく▲5八金と一旦、受けるのが正着だったようだ。
「▲5八金は△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛▲3三角成△4二銀▲3四馬が検討された。これは難解のようだ」【中継サイト局後の感想解説】

 第5図で▲5八金は手の流れとしては変だが、実際に△8六歩▲同歩△8九角と指されてみると厳しく、やはり、一旦、▲5八金と守るべきだったようだ。
 中継サイト解説では
「昨日、あとで考えてみたのですが、やはり△2七歩はすごいですね。▲3三角成△4二銀打▲同馬△同玉▲2七飛△8九角でいいのでしょうけど難しい手順ですし、△4五桂に▲5八金と受けられたときに△2七歩が指し過ぎになるかもしれません。先手は飛車を攻めに使う方針なので、▲2一飛成とできれば△2七歩▲同飛が1歩得の結果になりますから、△4五桂に▲5八金と受けに回るのは違和感がありません。本譜は△2七歩の趣旨が通ったといえます。△8九角が痛いと思うのですが。どう受けるのでしょうか」と森内九段。

 《△2七歩を指し過ぎにする方針での▲5八金は違和感がない》というのは、森内九段らしい考えだ。

 ここから羽生九段の辛抱が続く。△8九角に馬作りを甘受する▲7九金を着手。一旦、▲6三歩△5二金(△6三同金が正着だったらしい)と後手陣に味をつけ、▲6八香△7六馬▲6九桂。
 それでも、△8六飛と遂に飛車まで機能しては、辛抱も報われないかと思ったが、続く▲5五馬(第6図)に△4四歩で先手にチャンスが来た。

 第6図での△4四歩は桂取りを軽く受ける味の良い一着(▲4四同馬なら馬の位置も変わるし、後手は4筋に歩を打てるようになる)というABEMAの解説もあったが、△4四銀と先手を取るべきだったようだ。
 なぜなら、ここで▲5八金(変化図2)と受けに回るのが有効だったからだ。

「(感想戦で)森内九段が▲5八金を示すと羽生は「えっ、いまですか」と声を上げた。あまり考えていなかったようだ。▲5八金に△7五馬なら▲4八銀△8七歩▲8九歩△8八銀▲7八金(変化図3)で攻めるのも大変だ」【中継サイト解説】


 変化図3以下、△8四馬なら▲6四馬△7八銀成▲8六馬、△7六同馬なら▲6七金左△9四馬▲6四馬で勝負に持ち込めそう。

 本譜は▲2三飛成。働いていない飛車の活用で後手玉に圧力を掛けたが、現状ではさほどの脅威にはならない。しかも、△3二銀と龍取りに受けられ、▲2二龍と後手を引くようでは、まったく勝ち味がなくなってしまった……
………………




 私が問題に感じたのは、はっきり形勢を損じた第5図よりの▲1一角成が、2日目再開直後に僅か8分の考慮で指されたこと。
 そして、2度の亘る▲5八金の受け(①第5図より敗着・▲1一角成に代えて、②変化図2)を考えなかったこと。

 先日の対斎藤八段戦(A級順位戦)と言い、本局と言い、羽生将棋に変調を感じられる。
 たくさん指していれば、出来の悪い将棋はあるだろう(何局か思い浮かぶ)。ただ、その出現頻度が高くなってきているのも事実。
 しかし、対菅井戦の連勝、竜王位挑戦者決定三番勝負・対丸山戦(第一局も敗れたとはいえ、羽生九段の6筋逆襲はものすごい構想だった)、対藤井二冠戦(王将リーグ)など、羽生九段しか成しえない将棋だった。

 豊島竜王の研究を含めた将棋の強さは相当なレベルだが、純粋な将棋の強さは一時より落ちているので、羽生九段も前者の強さを必要以上に警戒しないで、自分の将棋を指せば十分勝機はあるはずだ。
 
コメント (2)
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