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国家試験(実地試験)が2週間後に迫っていたため、
就職活動は後回しにして学校の実習室を借りて練習させてもらう事になりました。
試験当日、
どこのお店にも所属してない僕は試験道具の手持ちが少ない為、
「現地調達」という賭けに出ました。
JR鶴橋駅は焼肉の匂いが充満していました。
駅から会場の日本理美容専門学校には、多くの理容師が列をつくりました。
試験会場から出てくる先発グループに目を凝らしました。
一斉に会場から出てくる受験者の中に『イッチョカミ藤』の姿を発見しました。
首を伸ばして上に伸び上がるような独特な歩き方は相変わらずでした。
上田「おおーい!藤~!道具貸して!」
声に気付き、やってきた藤の頭は見事な7:3分けでした。
藤「「おう上田!久しぶりやな・・どないしたん?」
「ええーっ!?道具持ってないの?アッカンやん!」
「何いるの?バリカン、パウダー、え?刈布?・・」
「それやったらな、これ、カバンごと持っていき!」
「そのかわり後で家に持って来てくれる?」
「これ、とーちゃんのやねん」
「しかし、ええんかなあ?・・1回使ったヤツ(笑)」
「コレ・・毛だらけやん(笑)」
「しかもこれ・・ごっつい濡れてんでえ(笑)」
「まーまー、無いよりはええもんなあ・・いやホンマに」
藤に借りた「少し毛が付いて少し濡れている道具」で試験を受けました。
実地試験は受験番号順で「相モデル」で行われました。
幸いな事に、相モデルの相手は髭もツルツルで刈りやすい幼い奴でした。
受験内容は、「刈込準備」「刈込み」「シェービング」「衛生」といった感じです。
「刈込準備」はCUTの準備作業です。
相モデル君の首元に藤の少し濡れたタオルを巻きつけました。
相モデル君は少し「ビクッ」と動きました。
相モデル君に藤の毛だらけの刈布を巻きつけました。
相モデル君の目が「ギョッ」と大きくなりました。
運がいいのか、この時に試験官は近くにいませんでした。
既にたっぷりと濡れているもうひとつのタオルで髪の毛のクセを直します。
「刈込み」はスソにバリカンを入れて、スソを鋏で刈込みます。
この作業は実習室で浮浪者相手に場数を踏んでいたので、緊張はしませんでした。
「姿勢」「立ち位置」のほうに意識を集中しました。
最後に7:3に分けて終了です。
「シェービング」は「顔剃り」です。
実際にモデルの顔を剃ります。
「逆剃り」「深剃り」はやりません。
藤に借りた、既に泡だらけのシェービングカップを再度泡立てます。
相モデル君はヒゲが薄く、楽勝でした。
「衛生」は一連の作業に対する「清潔さ」を求めるもので、
定期的に首元の毛を払ったり、一度使ったものには手を触れない、
といった「技術」とは別のものでした。
これに関しては「最悪」でした。
借り物の「毛だらけ」「泡だらけ」「濡れ濡れタオル」、
試験官に見られてなかったと思うが・・・。
交代して自分がモデルになります。
相モデル君はガチガチに緊張していて手はずっと震えていました。
改めて周りを見渡すと、みんなかなり緊張していました。
無職の僕はある意味うまい具合に開き直れました。
きちんと7:3に分けられ、無事に実地試験が終了しました。
そのまま関美に向かいました。
実習室には試験帰りの同期の連中がたむろしていて、
7:3分けの頭でやってくる一人一人に笑いがおきました。
しかし、
僕だけが違った理由で笑われました。
「上田何やその頭は!?後ろエライ事になってんで~!」」
合わせ鏡で頭の後ろを見てビックリ!
耳周り、襟足、が「ワカメちゃん」のように剃りあげられていました。
「・・あのガキ、許さん!!」
後日、試験は無事に合格しました。
(相モデルのヤツは勿論不合格)
「住み込み」では募集が少ないということで
アパートを借りる事にしました。
出発点に戻りたい気持ちで「羽衣」で探しました。
羽衣不動産のお兄さんが
「あんた、前住んでた所の一階が空いてるで」というので、すぐに決めました。
その足で早速『オバタリアン達』に挨拶に行きました。
「ツバメが帰って来たでー!」
『大村婆さん』と『西田オバサン』は
相も変わらず元気で、大歓迎してくれました。
僕が住んでいた2階の真ん中の部屋は
西岡オバサンの中学生になる娘の部屋になっているそうで、
知っている人達ばかりで安心しました。
僕の新しい部屋は一階で、
階段を登らずに一番手前の部屋で、つまり大村婆さんの真下でした。
大村婆さんのお経は下にも聞こえてきました。
すぐ隣は、
昔僕が洗濯の水をこぼして怒鳴り込まれた『頑固じじい』の部屋で、
恐る恐る挨拶に行きましたが、
以前の勢いは無く、弱々しい老人になっていました。
大村婆さんによると『アル中』ということでした。
一番奥はヤクザ夫婦が住んでいました。
おっさんは小柄ガッチリのパンチ頭でいつも大声を発しながら歩いていました。
大村婆さんによると奥さんはラブホテルで働いているらしいです。
早速、新聞の勧誘が来ました。
上田「イランから帰って!」
しかし、もうそろそろ働かんと食っていけんな・・
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