■59■
「その男」は堺市に住んでいました。
初芝駅に着くと電話して迎えにきてもらいました。
遠くから自転車が近づいてきました。
首を伸ばし、アゴをあげて、いつものスタイルです。
「上田!お待たせー!ひっさしぶりやなあ~!!元気しとった?」
上田「藤も元気そうやん!」
専門学校同期、「イッチョカミ藤」をスカウトです。
藤は地元のユニセックスサロンで働いていました。
ママチャリの後ろに乗せてもらい、藤家に向かいました。
「藤家」は車通りを曲がり、細い路地に面した住宅街にありました。
「理容藤」、昔ながらの散髪屋という感じでした。
裏手に回り勝手口を開けると細い階段があり、「ギシギシ」と音を立てて上がりました。
藤の両親が並んで正座して、何やらお経を唱えていました。
「すみません!おじゃまします!」
全く反応がありません。
藤「構へんねん、放っといたって~、アレやってる間は聞こえへんで」
襖を開けた4畳半が藤の部屋でした。
乱雑に置かれた洋楽CDの山は、聴いた事のないものばかりで新鮮でした。
藤「え~もん見せたろか・・」
押入れから大事そうに出してきたのは、
「8ミリフィルムのカメラ」と「映写機」でした。
上田「おおーっ!こんなん、映画・転校生で見て以来やー!」
「カッコええ!」
藤「撮ってみるか?3分フィルムやけど・・」
薄暗い部屋の中で、ポーズを取ってみたりコミカルに動いてみたり、
撮ったり撮られたり、カタカタカタという音と共に3分間はあっという間に過ぎました。
撮ったフィルムを「映写機」に絡め、早速観てみました。
カーテンを閉め、部屋を暗くして壁に映し出しました。
「カクカク」と動く映像は「哀愁」が漂い、脳の奥に「ビンビン」ときました。
上田「・・アカン!イッてしもうたワ(笑)!」
「カッコ良すぎやん!」
藤「そやろ!でもコレ、機材もテープもムッチャ高いねんで」
「しかもテープの方は生産終了なんやて」
お経を唱え終えた藤母が襖を開けました。
母「さっきはごめんナぁ、」
「ありがたいお水あるけど、出そか?」
上田「ありがたいお水・・ですか?・・」
藤「出したって!」
上田「いや・・あの・・」
「ありがたいお水」とは缶ビールでした。
(面倒くさいこと言うワ・・)
昼間から飲むビールはとても美味しく、気持ちがゆったりとしました。
藤は一緒に出てきた「麦チョコ」をムシャムシャと食べていました。
しばらく藤家で談笑したあと、
近所にあるゴルフの打ちっ放しに出掛けました。
二人ともゴルフなんかやった事がないので、2階席にそれぞれ陣取りました。
空も暗くなり、ナイターになりました。
上田(打ちながら)「藤、ウチの店に来~へんか?」
藤(打ちながら)「難波か!ええな~」
上田「俺、近い将来田舎帰って店出すから・・」
藤「そうか・・、まだ居るんやろ」
上田「まだ居るで、・・・一緒にやるか?」
藤「やってもええな~」
帰りに藤母に、今度は本物の「ありがたそうなお水」を持たされました。
(ラベルの無いペットボトル)
【7月】、
技術者「藤」が入店しました。
藤「四藤先輩!よろしくおねがいしま~す!」(威圧感たっぷり)
四藤「やめてください、そんなイジメ・・(汗)」
藤が来たことで、賑やかになりました。
藤は少し「天然ボケ」がありました。
突然カタカナの「ぬ」が書けなくなったり、「血尿」を「ケツ尿」と信じ込んでいたり
(ケツから尿が出ると思っていたらしい)、
封書などの「親展」を「親宛」と思い込んでいたり、
「天然ぶり」を発揮するたび「四藤君」が大喜びしました。
ヘアテックは初の『3人体制』となりました。
藤「あのトイレ、アカンワ!出てこられへん!」
技術者が二人になったことで、
お店のメニューも多様化し、店販にも力を入れ、客単価も上がってきました。
再度新規客獲得に向け、再び「割引チラシ」も配りました。
【8月】、
我が家に女の子が誕生しました。
出産に立ち会いました。
父になった僕はさらに張り切りました。
【12月】、
2度目の年末、連日たくさんのお客さんで大忙しでした。
僕は1日17人ものお客さんをこなしていました。
藤も常連客を順調に獲得し、補助で回る四藤君は大量の汗と共にへたり込む毎日でした。
売上もこれまでの最高に達しました。
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