漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 1106

2022-11-09 06:11:31 | 古今和歌集

けふひとを こふるこころは おおいがは ながるるみずに おとらざりけり

今日人を 恋ふる心は 大井河 流るる水に 劣らざりけり

 

よみ人知らず

 

 今日あの人を恋い慕う心は、大井河を流れる水の激しさにも劣らないのであるよ。

 巻第十一「恋歌一」に記載されていた墨滅歌で、詞書には「奥山の菅の根しのぎ降る雪下」とあります。「奥山の菅の根しのぎ降る雪」は 0551 の冒頭のフレーズ。「恋歌一」の最後に記され、墨滅にされていたということですね。「大井河」は「大堰川」とも書く京都嵐山を流れる川で、堰が設けられ流れが速いことで知られる川を指します。

 

 

 


古今和歌集 1105

2022-11-08 06:20:01 | 古今和歌集

うきめをば よそめとのみぞ のがれゆく くものあはたつ やまのふもとに

うきめをば よそめとのみぞ のがれゆく 雲のあは立つ 山のふもとに

 

あやもち

 

 この世のつらい思いをよそ目に見ようと思って逃れて行くのだ。雲が沸き上がるように立っている山の麓へ。

 詞書には「そめどの あはた」、左注には「この歌、水尾の帝の、染殿より粟田へ移りたまうける時によめる 桂宮下」とあります。「そめどの(帝の離宮)」「あわた(地名)」を詠み込んだ物名歌で、第56代清和天皇が退位され、染殿から粟田へ移られた時に詠んだ歌。あった場所は「桂宮」を詠み込んだ 0463 の次、ということになりますね。
 作者のあやもちは不詳の人物。古今集への入集はこの一首のみです。 

 


古今和歌集 1104

2022-11-07 06:11:40 | 古今和歌集

おきのゐて みをやくよりも かなしきは みやこのしまべの わかれなりけり

おきのゐて 身を焼くよりも かなしきは みやこしまべの 別れなりけり

 

小野小町

 

 熾火となった炭を身に置いて体を焼くことよりもつらいことは、都島のあたりでの別れなのであった。

 詞書には「おきのゐ みやこしま」、左注には「からこと 清行下」とあります。おそらくは地名(詳細不明です)である「おきのゐ」「みやこしま」を詠み込んだ物名歌で、安倍清行の「からこと」の歌(0456)の次に採録されているということですね。
 「おきのゐ」は良いとして、「みやこしま」はそのままの地名として詠んでいるので、こういうのを物名歌と呼ぶんだろうかとちょっと(かなり?)疑問ではあります。正式には採録されず、墨滅歌となっている理由の一つなのかもしれませんね。

 


古今和歌集 1103

2022-11-06 04:57:08 | 古今和歌集

こしときと こひつつをれば ゆふぐれの おもかげにのみ みえわたるかな

来しときと 恋ひつつをれば 夕暮れの 面影にのみ 見えわたるかな

 

紀貫之

 

 あの人が来てくれた時間だと恋しい気持ちでいると、夕暮れの中、ただあの人の面影だけが見え続けているよ。

 詞書には「くれのおも」、左注には「忍草 利貞下」とあります。「くれのおも」を詠み込んだ物名歌、あった場所は「忍草」詠み込んだ紀利貞歌 0446 の次ということですね。「くれのおも」とは聞き慣れない語ですが、セリ科の多年草でウイキョウの別名とのことです。


古今和歌集 1102

2022-11-05 06:49:21 | 古今和歌集

かけりても なにをかたまの きてもみむ からはほのほと なりにしものを

かけりても 何をか魂の 来ても見む 殻は炎と なりにしものを

 

藤原勝臣

 

 空を翔けてやって来ても、魂は何を見ることができるのだろうか。亡骸はすでに炎となってしまっているのに。

 左注に「をがたまの木 友則下」とあります。「をがたまの木」を詠み込んだ物名歌、もともとの記載場所は「友則の次」すなわち 0431 の次に採録されていた歌ということになります。第二句から第三句にかけて、「なにをかたまの きてもみむ」と「をがたまのき」が詠み込まれていますね。「殻」は亡骸、「炎」は火葬の炎、近しい人の死を悼む歌ですが、物名歌ですので本当に人の死に際して詠まれたものかどうかはわからないですね。