人に文やりける、女のいかがありけん、あまたたび返りごともせざりければ、「やりつる文をだに返せ」といひやりたりければ、文焼きたる灰を、それとておこせたりければ、よみてやれる
きみがため われこそはひと なりはてめ しらたまづさや やけどかひなし
君がため われこそ灰と なりはてめ 白玉梓や 焼けどかひなし
あなたのために、私自身が灰となりましょう。手紙を焼いたとしても、あなたを思う気持ちまで灰にすることはできませんから。
「玉梓」は「使者」、「使い」の意もありますが、ここでは「手紙」の意。貫之集第五「恋」の中で、例外的に詞書が付されている三首(他二首は618、674)のうちの一首です。
この歌は、新拾遺和歌集(巻第十四「恋四」 第1306番)に入集しており、そちらでは下二句が「しらたまづさは やけてかひなし」とされています。