漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 686

2025-03-02 04:32:19 | 貫之集

藤原兼輔の中将、宰相になりて、よろこびにいたりたるに、はじめて咲いたる紅梅を折りて、「今年なむ咲きはじめたる」といひいだしたるに

はるごとに さきまさるべき はななれば ことしをもまた あかずとぞみる

春ごとに 咲きまさるべき 花なれば 今年をもまた あかずとぞ見る

 

藤原兼輔の中将が宰相になったお祝いにでかけたときに、咲き始めた紅梅を折って「今年になって紅梅が咲き始めた」と言われたのを受けて

春になるたびに、ますます美しく咲くはずの紅梅ですから、今年の花も、これではまだ飽き足らないと思って眺めることです。

 

 藤原兼輔(ふじわら の かねすけ)は平安時代中期の貴族にして歌人。勅撰和歌集に56首入集している勅撰歌人で、百人一首(第27番)の歌はよく知られていますね。

 

みかのはら わきてながるる いずみがは いつみきとてか こひしかるらむ

みかの原 わきて流る 泉川 いつみきとてか 恋しかるらむ

 

 「宰相になりて」は、延喜二十一年(921年)に兼輔が参議となったことを指しています。美しく咲いた紅梅が「今年咲き始めた」との言は、出世の道はまだ始まったばかりとの含意があり、それをふまえての貫之の祝意の歌です。