藤原兼輔の中将、宰相になりて、よろこびにいたりたるに、はじめて咲いたる紅梅を折りて、「今年なむ咲きはじめたる」といひいだしたるに
はるごとに さきまさるべき はななれば ことしをもまた あかずとぞみる
春ごとに 咲きまさるべき 花なれば 今年をもまた あかずとぞ見る
藤原兼輔の中将が宰相になったお祝いにでかけたときに、咲き始めた紅梅を折って「今年になって紅梅が咲き始めた」と言われたのを受けて
春になるたびに、ますます美しく咲くはずの紅梅ですから、今年の花も、これではまだ飽き足らないと思って眺めることです。
藤原兼輔(ふじわら の かねすけ)は平安時代中期の貴族にして歌人。勅撰和歌集に56首入集している勅撰歌人で、百人一首(第27番)の歌はよく知られていますね。
みかのはら わきてながるる いずみがは いつみきとてか こひしかるらむ
みかの原 わきて流る 泉川 いつみきとてか 恋しかるらむ
「宰相になりて」は、延喜二十一年(921年)に兼輔が参議となったことを指しています。美しく咲いた紅梅が「今年咲き始めた」との言は、出世の道はまだ始まったばかりとの含意があり、それをふまえての貫之の祝意の歌です。