漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 687

2025-03-03 05:36:50 | 貫之集

延長五年九月、右大臣殿前栽合の負態、内舎人橘助繩つかうまつる州浜に書ける

くさもきも おもひしあれば いづるひの あけくれこそは たのむべらなれ

草も木も 思ひしあれば 出づる日の 明け暮れこそは たのむべらなれ

 

延長五年(927年)九月、右大臣殿の前栽合の負態として内舎人橘助繩が作った洲浜に書いた歌

草も木も、成長しようという思いがあるなら朝にはその日の出を、暮れには翌日の日の出を頼りにしているのであろう。

 

 詞書も歌も難解ですね ^^;;
 「右大臣殿」は藤原定方(ふじわら の さだかた)。ただし「左大臣」としている写本もあるようで、そうであれば藤原忠平(ふじわら の ただひら)のこと。「前栽」は草木を植えた庭や植え込みのことで、その優劣を競うのが「前栽合わせ」、「負態」は「まけわざ」と読み、勝負に負けた方が用意する賭物や御馳走のことです。「洲浜」は古典和歌の詞書によく出てきますが、コトバンクの解説をそのまま引用すると「吉祥の意味をもった一種の置物。屈曲する海岸線の状態を表現したほぼ楕円形の板に短い脚をつけ、上に岩木、花鳥などを飾る。」とのこと。現代風に平たく言えば「自然を模したミニチュアの置物」ということでしょうか。
 歌の方は、成長しようとする草木は明けにも暮れにも日の出を頼りにする、ということで、「成長」は出世、「日の出」は日の出の勢いで権勢を増す主君の比喩ですね。なかなかにギラギラした(?)祝賀の歌です。