日付は2011年2月24日。
震災まで二週間、父の入院まであと4日という時のメモだ。
今は取り壊されて存在しない校舎の二階から外階段で降りて帰るときの話である。
遠い国の夢のような話に思える。
あの日を境にして、大きく変わったのだなぁ、と改めてしみじみ。
震災前後のメールは貴重な記録です。
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夕方、二階から外階段を下に降りようとして表にでると、懐かしい匂いがした。
甘やかな、柔らかい春の女神の香りである。
気がつけば今日はもう雨水。
寒い寒いといって、コートの襟を立てていたのが嘘のようだ。
あんなに大雪があったのも、ついこの間なのに……。
それにしてもこの春風の甘い匂いは、どこからくるのだろう?
湿度?それとも温度?それとも花粉のにおい?
それがなにからくるのかは分からないけれど、子供の頃から知っている。
行ってきまーす、といって家の扉を開け、外に飛び出した瞬間に感じる季節の変化。「今日から春だ」と、子どもごころに独り決めする日が確かに存在していた。
最近、この国の将来を憂える言説には日々事欠かないけれど、胸一杯風を吸い込むだけでこんなに豊かになれるとしたら、私たちはもう少しゆっくり歩いたり考えたりしてもいいのかもしれない。
*雨水(うすい)=寒さが緩み草木が芽吹く季節。