行政書士中村和夫の独り言

外国人雇用・採用コンサルティング、渉外戸籍、入管手続等を専門とする26年目の国際派行政書士が好き勝手につぶやいています!

7年前のある在留資格変更不許可案件 その2(シリーズ第21回)

2009-04-09 05:51:56 | 行政書士のお仕事

 この日系人Mさんは、戸籍に記載がない訳ですから、お父様の本籍地へ記載事項申出書を出して、管轄する法務局に判断して貰う方法が一つあります。そして、Mさんが生存されている以上は、届出をせずに、来日して頂いて居住地の家庭裁判所に就籍の審判の申し立てをする方法もあるのです。とにかく、いずれかの方法を採る必要があるのでした。そこで、この概要を、その知人の方へ知らせたところ、近々ご本人が来日したいとのお返事でした。

 来日した、いかにも”田舎のおじいちゃん”という感じのMさんと、その知人の方の経営するペルー料理店で何度かお会いしました。子供の頃の日本人小学校の頃の話し、当時沢山あった日本人学校は、世界大戦を挟んでその殆どが廃校になってしまった話やら、お父様がいつもお茶を音を出しながら”すすって”飲んでいた(西洋人は、すすって音を出しながら飲むことは下品だという習慣があります。)という笑い話しやら、軍人であったMさんが日本人であったこと(彼はその当時でも、日本人父から”お前は日本人だから”といつもに言われていたそうです。)で、昇進が出来なかったことや、Mさんご自身が陸上競技でペルー新記録を出した話やら、はたまた、クーデター事件に巻き込まれてしまった話やら等々、始めて父の国に来て、父と同じ日本人である私に聞いて貰いたい事が山のようにあるように思えたのでした。

 ところで、Mさんとの話の中で、Mさんにはその8年ほど前に日本にやって来て、日系人であることを立証できずにそのまま不法在留している息子のVM君がいた事が判ったのでした。私は、Mさんが単なる日本人の子ではなく、日本国籍を有している可能性があるから、その息子のVM君に会いたいと申し出たのでしたが、彼は長年隠れて暮らす身であった為なのでしょうか、とうとう私と会おうとしなかったのでした。

 そこで、私は取り敢えず、Mさんに日系二世としての在留資格を取得して、その後Mさんの国籍の届出をするつもりであったのでしたが・・・。

 ところが、東京入管の答えは”不許可”でした。私は納得がゆかず、Mさんと共に当時大手町の合同庁舎内にあった東京入管の永住審査部門を訪ねたのでした。

 応対した統括審査官は、「許可はできません!」

 「なぜですか?彼は間違いなく日本人の子だと、私は思うのですが・・・」

 「仮に、そうだとしても、この方には不法残留している息子がいる。親としての責任があるので、許可する訳には行きません!」と、統括審査官。

 むっと、してしまった私なのですが、よく考えて見たら、統括審査官は、Mさんが日本人の子では無いとまでは言っていないのでした。寧ろ、そうである、と言っているようなものである事に気が付いたのでした。

 「分かりました。ご本人にその旨伝えましょう。」そう、私は答えながら、これはもう就籍の審判しかないと決めていたのでした。入管と同じ法務省管轄の法務局が入管局と異なった結論を出すことは、行政判断上の矛盾になるかもしれないという危険がある以上、行政機関では無い司法機関による判断に任せた方が賢明だと思ったからです。

 一方で、入管局の判断に対する取り消し訴訟という行政訴訟は、ご老人のMさんやご家族にとっては大変な経済的な負担となります。そして、何よりも裁判で日系2世と認めないという行政側の瑕疵を立証する必要があります。そして仮にその瑕疵が認められ、取り消し訴訟で勝訴したとしても、同時並行して行われる確認訴訟においては、Mさんの在留資格が必ずしも認められるという保証は無いからです。ですから、入管局相手(名目上は、法務大臣を相手にする訴訟となります。)に訴訟を起こす場合、費用対効果という側面からして、とても勧められる選択肢とは言えませんでした。

 実は、こういった様々な選択肢については、不許可通知を受けた直後に、ご本人のMさんやペルーのご家族にも、国際電話で既に説明済みだったのです。ですので、合同庁舎の1階ロビーで、改めてMさんに、ご家族側のご判断としての今後の選択肢を確認したのでした。

 我々行政書士は、こういった場合でも、依頼人に幾つかの選択肢を予め提示し、そのいづれの場合に起こりうる費用や事態の概要を説明する必要があります。それが、たとえ我々が行えない訴訟事件となるような場合であっても、せめて今後どのように展開して行くのかという指標というか、見通し説明くらいは答えて差し上げなければならないのです。

 こうして、知人の弁護士に既に事前に説明してあった就籍審判案件を、正式に申し立て人の代理人として就任して貰ったのでした。勿論、Mさんには、在留資格が許可されなかった以上は、一旦ペルーに帰国して頂いたのでした。

 行政書士としての私は、たとえ非訟事件で争訟性が無くとも、裁判である限りは代理人にはなれません。しかし、通翻訳者でもある私は、知人の弁護士さんにこの審判事件の訴訟代理人になって貰う事で、Mさんと弁護人との通翻訳者として、実質的には堂々と審判事件に関与する事が出来たのでした。

 以下、次回その2に続く・・・  

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