今から18年ほど前、スペイン鮪(いわゆる最高級の本マグロです!)の畜養プロジェクトに関わっている会社に転職し、M社長と共にスペインアンダルシア地方のアルヘシラスという小さな港湾都市にある現地法人のT支社長と共に市場を最初に訪ねた時のことです。
「ナカムラ! 溺れたマグロは値が付かないから普通は競りには出さないんだよ!」
と言われたのでした。
「えっ? マグロが溺れる?? のですか? Tさん。」
「ああ、マグロはな、エラを動かせて呼吸をしていないんだよ。ナカムラ。」
「だから、普通の魚みたいに一箇所に留まって泳ぐことが出来ないんだよ!」
「つまり、マグロは泳ぎ続けながら、流水を取り込んで
呼吸をしているってことですか?」
「ああ、そのとおりなんだ!ナカムラ。」
「じゃ、マグロって、寝ている間も泳いでいるのなぁ???」
「ああ、まさにその通りなんだよ。ナカムラ」
「ナカムラ君。Tは、マグロ大好き人間でね。一日中マグロの話ばっかりなんだよ。」
「Tさんは、マグロ博士なんですね!」と、ちょっとお世辞を込めて伝えると、
日頃は強面のスペイン人支社長のTさんも、その時には嬉しそうに
笑った顔が実に印象的でした。
しかし4年後、私がプロジェクトマネージャーとして現地で総指揮を執った時、
悪天候による生け簀海域の海水の汚濁で溺死マグロが多数発生したことで、
会社の損失を少しでも減らす為に、溺死したばかりのマグロを
素早く見つけて状態の良いマグロは現地で売却するようにと、
私自らが指示を出していようとは、その時は想像さえもしていませんでした。