ストーカー行為の果てに、相手女性のマンションドアに放火した犯人が元自衛官との呼称で報じられている。
当該犯人には複数の職歴があり、現在は俳優を自称しているようであるが、なぜメディアは元自衛官の呼称を使用するのだろうか。一般人以上の倫理観を教育されたであろうとする元自衛官の犯罪とする方が、数ある平凡な職歴や自称よりもインパクトがあり、かつ反軍・反戦・反自衛隊の雰囲気づくりに有利とするメディア慣習の延長ではなかろうかと邪推するものである。昭和40年代までは、災害派遣や海難救助の報道にあっては、警察・消防・海保に倍する自衛隊員や自衛艦が活動しても、決してその映像が流されることは無かった。そのような背景を下敷きに元自衛官の呼称の適否ついて考える。一般に、幹部候補者を除く一般隊員は、陸自2年・海空自3年を1任期とする任期制隊員として採用され、曹(下士官)に昇任するまで任期を更新する、いわば契約社員的に処遇されている。いわゆる職業軍人とは下士官以上の軍人を言い、兵卒(任期制隊員)には職業軍人ほどの倫理感は求められないのが一般的である。入隊まで雑多な生育環境に置かれた人間が隊門をくぐった瞬間に覚醒し、かつ2・3年で人格を一変させることなど困難であることは容易に理解できるだろう。それゆえにこそ、防大を含む大卒採用者は1年の幹部候補生教育を、一般隊員は入隊後5年程度以上の期間を経て下士官に昇任し得る制度となっている。国粋的な愛国活動家として報道される奥茂治氏(韓国の慰安婦像の謝罪文張替えが有名)も元海上自衛官と報道されることが多いが、氏の海自在職期間は任期制隊員としての5年間(2任期)であり、以後の活動に少なからぬ影響を与えたではあろうが海自在職経験が氏の全人格を形成したとは考えにくい。
以上の考察から言えば、徴兵制がある韓国では犯罪者の大半が元軍人となるのであろうが、そのような扱いはなされていないと思う。元軍人や元自衛官との呼称は、より高い倫理観を持つべき職業軍人(自衛官)である下士官以上に使用すべきではないだろうか。