もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

アメリカ政府の閣僚人事を学ぶ

2021年02月11日 | アメリカ

 バイデン政権の閣僚予定者に対する上院公聴会の様相が報じられた。

 上院公聴会では、各閣僚予定者に対して対中国姿勢に関する質問が多くなされ、各予定者も概ねトランプ政権の対中強硬姿勢継承を主張しているために予定通り承認される公算が大きいものの、ファーウェイ社の禁輸リスト維持を明言しなかった商務長官候補に対しては採決延期となって任命が遅れる可能性が指摘されている。
 上院での承認を必要とするのは、閣僚15人、閣僚に準じる高級幹部7名のうち大統領首席補佐官を除く6名を加えた21名であるらしいが、現在まで数人が承認されたのみであることを日本的視点で眺めると、大統領就任後20日を経過してもバイデン政権は完全には機能していないようにも映る。
 日本では、首班指名後1~2日で組閣を完了して認証式を終われば即「大臣」であり行政機能の中断は短期間であるが、国民が大臣としての所信を知るのは認証式後に行われる短時間の記者会見のみである。また、大臣の大半が立法府の議員ではあっても、新任大臣は所管する行政に素人である場合もあり以後の国会答弁に窮したりという失態を演じるケースも多く、所謂「身体検査」も身内の風聞だけであるために身上の不始末に起因する早期辞任劇も散見される。
 日本の例を見る限り、アメリカで行われる公聴会という身体検査は有効なようにも思えるが、過去の例では予定者の殆どが承認されており、承認が長引いたために承認申請を取り下げた例も2・3例に過ぎないようであることを善意に考えれば、人格・識見ともに大臣(長官)に相応しい人物が予定者とされていると観ることも可能であるが、新大臣に立法府が釘をさすという立法府の国政調査の変形かとも思える制度であるように思える。

 アメリカ上院公聴会のあれこれを調べる過程で、退役軍人長官という大臣ポストがあることを知った。退役軍人協会という団体が全米ライフル協会とともに共和党の強固な支持母体であることはニュースで良く耳にしていたが、退役軍人の所管大臣がいることは驚きであった。よく考えてみると、朝鮮戦争、ベトナム戦争と大量に徴兵して戦後に除隊した退役軍人の処遇やケアは、省庁と大臣を必要とする規模であるのだろう。翻って大東亜戦争後の日本を思うと、厚生省復員局という1部局が、復員・遺骨収集・軍人恩給の算定等の戦後処理等を行っていたと思うので、復員局の努力には頭の下がる思いがする一方で、終戦の混乱期とは言え国家に貢献した退役軍人に報いるには果たして充分であったのかとの思いも覚えるところである。


名画の贋作に思う

2021年02月10日 | 美術

 日本画壇の錚々たる大家の贋作が流通していることが報じられた。

 贋作は大阪の美術商が奈良県の会社に発注したもので、当の美術商も贋作を認めて居る。
 贋作されたのは、東山魁夷・平山郁夫・片岡球子・有元利夫画伯等の人気画家の作品であるが、贋作が長期に亘っていることや既に800点余りも贋作が確認されていることから、さらに被害が拡大する恐れもあるらしい。今回の贋作は、画家や遺族の承諾を得ずにリトグラフ刷りするという手口であるらしい。かってリトグラフの作成過程を映像で見たが、刷り上がった版画の画質や色合いを画家が1枚1枚確認した上で、一貫番号/総枚数とサインを入れていたように、画家にとっては原画と変わらぬ熱情を持っているものと思う。画廊で見た経験からであるが印刷枚数1000枚以上というものもあり、原画であれば数百万円もする有名画家の絵画が、リトグラフ(石版画:ただし現在ではアルミ原版等を使用しているらしい)であればその1/10ほどの額で購入できることから、庶民の(とはいってもある程度の余裕がある)美術愛好家からは人気を博している。
 かっての贋作は、原画を忠実に模写する方法で、贋作者にも本来の画家に負けず劣らずの画力が必要であったが、リトグラフであれば先端技術を使用することによって本物と見分けのつかない物を作り出すことも可能であるように思う。今回発覚したの一因は、紙質・色合い・サインに違和感を持たれたこととされるので、贋作としての出来もイマイチであったのかも知れないが、不信を持たれた最大の要因は、大量の作品が市場に出回り値崩れを起こしたためとされている。
 業界団体は所有者に真贋鑑定を呼び掛け、贋作を販売した可能性があるデパートは買戻しを発表する等、美術界は混乱しているが偽物を掴まされた人には深く同情するものである。

 贋作が絶えない原因は金銭欲によるものが殆どであろうが、中には模写を通じて画家に傾倒するあまり結果として贋作を描いたケースもあるらしい。また、成功したコローが金に困った弟子の描いた「コロー風の絵」にサインを入れてやった結果、「コローは生涯2000点の絵を描いたが、そのうち3000点がアメリカにある」とコローの贋作の多さと真贋を見抜けずに買い漁る金満アメリカ人を嘲笑・揶揄する言葉がヨーロッパの美術界にあるらしい。
 贋作されるほどの絵を描いてみたいものであるが、その前に教室の先生様から叱られないことが先決という現状。嗚呼!!


潜水艦「そうりゅう」の事故に思う

2021年02月09日 | 自衛隊

 海自潜水艦「そうりゅう」の、接触事故が報じられた。

 防衛省の発表では、接触事故は足摺岬南東50Kmの海域で、訓練中の潜水艦の潜望鏡部分と航行中の中国船籍の船底が接触し潜水艦乗員の3人が打撲等の軽傷を負ったものの商船に被害はないというものである。
 潜水艦勤務の経験がないので、以下は伝聞や一般的知識に依る記述であることをお断りしておくが、船の浮力は船が押しのける水の反作用であるために、水上艦は自身の重量よりも浮力が大きい「正浮力」の状態で浮かんでいる。一方、潜水艦は空気タンク内の空気量を調整することで「正浮力」「負浮力(浮力よりも重量が大きい潜航開始状態)」「中正浮力(重量と浮力が等しい水中運動状態)」を人為的に作り出しているために、空気タンクや空気制御システムの損傷は艦に致命的な結果をもたらすことになる。
 全てのシステムにおいては動作環境を切り替える際に異常は起き易く、航空機では離着陸を魔の数分と呼ぶように、潜水艦でも潜航開始と浮上時には特段の緊張感を強いられると聞く。
 今回の接触事故では空気システムに被害が無かったことで重大な結果から免れ得たものと安堵しているが、訓練海域の選定や浮上時の安全確認にいくつかの教訓を示しているように思える。
 事故の起きた海域は内航商船の航路帯に位置しており、防衛省が発表した訓練であれば、訓練海域としては一考の余地があるように思う。
 また、数十年前の教育課程で席を並べた同僚(潜水艦ソナー員)からきいたところでは、浮上前の海面安全確認は相当に難しく、聴音と潜望鏡で確認し浮上した場合でも、驚くほど近くに船舶がいることがあるらしいので、今後とも十分な教育訓練に努めて欲しいものである。
 海の忍者と呼ばれ、潜水艦は潜航状態であれば水上戦闘艦を凌駕する戦闘力を発揮するが、海中での運動性能を重視しているために浮上航走時の運動・索敵・攻撃力は水上艦に比べて格段に脆弱であるため、浮上した潜水艦は水上艦に抗すべきも無い。さらに、前述したように潜水艦は浮力維持という宿命を背負っているために、内殻以外の船体強度については商船をダンプとすれば潜水艦は小型車並みの強度しか持っていない。今回の接触事故でも潜水艦は軽傷者を出し潜望鏡部分に損傷(潜航不能?)を受けているが、商船は衝撃すら感じていないと報じられている。

 2018年05月25日『潜水艦「そうりゅう」のデコイ亡失』にも書いたことであるが、防衛省が艦名まで公表したことに限りない違和感を感じる。事故の速報は潜水艦から電波で報告されたと思うが、軍用電波は中国をはじめとする各国が聞き耳を立てているので、電文と発信者・内容を容易に対比できる艦名情報を公表することに何の利益があるのか疑問であり、最大の受益者は空母による東南シナ海の覇権に大きな制約である海自潜水艦の情報を得る中国であるのは明らかである。官僚の不祥事に際して公開された「海苔弁」資料は個人情報保護を盾にするが、軍の詳細を公表して損なわれるであろう事態は考え及ばないのだろうか。若し防衛出動が発動した場合にも、出動部隊の詳細や行動予定まで敵に教える発表を続けるのだろうか。
 自衛隊の事故の全てを隠蔽すべきと云っているのではなく、正面兵力の能力や脆弱性を露わにしかねない利敵行為を止めようと云っているのである。「〇ンナ賢しゅうして牛売り損なう」と云うが、「情報公開を重視し、自衛力損なう」ことにならないことを望むものである。


天城越えー改

2021年02月08日 | 美術

1月28日に披露した「天城越え(F20)」、鬼女の表情に手を加えて一応の完成としました。
が、
髪の色を赤色系統にするかどうか更に悩んでいます。
一応、居間に掛けて眺めながら思案を楽しみます。
要は、コロナ後に訪れるかもしれない孫の「怖がり度」が勝負所と思っています。


米軍艦のポートビジットを紹介

2021年02月07日 | 自衛隊

 日本がアメリカ海軍艦艇に与えている「ポート・ビジット」制度を紹介する。

 一般にはあまり知られていないと思うが、安保条約に基づく日米地位協定第5条で、アメリカが必要とする場合にアメリカ軍は、日本国内の全ての港湾・空港を利用することができることになっている。平時にアメリカがこの権利を強権的に行使することは無く、外交・防衛のルートによる事前協議の下に行われているが、国が了承(決定)した場合には港湾・空港管理者には要求を拒否できないことになっている。
 この規定によってアメリカ海軍艦艇が横須賀・佐世保・那覇基地以外の港湾施設を使用することを「ポートビジット」と呼び、入港の目的は一様に「promote to goodwill(親善訪問)」とされているが、前述した背景から真の入港目的に関わらず概ね米軍の要求は満たされるようである。
 一方、自衛艦が基地以外の商港に入港したい場合にも港湾管理者の事前許可を得る必要があるが、かって港湾管理者(自治体の長)が革新系の場合には入港を許可されないことや、最も不便な埠頭や港区を指定されることも少なくなかった。
 苦い思い出を一つ。
 米7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」が国内巡行する際にシスターシップ関係にある自衛艦が同伴したことがあった。ある商業港で、事前の調整では両艦ともに4日間横付け停泊できることになっていたが、3日目になって唐突に港湾管理者(市長)から自衛艦のみ岸壁を直ちに空けるよう通告された。岸壁明け渡しの理由は民間船の入港・荷役要請があったためとされていたが、通告時には交歓行事のために乗員は出払った後であり、機関の準備にも3~4時間を要する純停泊の状態であることから、おいそれとは要求に応じられない状態であった。幸いにして窮状を見かねた企業の好意で、機関を使用せずに移動(係留替え)できる私営岸壁を貸してもらうことができて、急場を凌ぐことができた。煮えくり返る腹を抑えつつ200mの岸壁が必要な緊急荷役とは?と観るうち、入港してきたのは船長40m程度の機帆船で当日の荷役も無かったように見受けられた。

 このポートビジットは、アメリカにとっては星条旗を示す格好の機会であり、日本にとっても核の傘の健在を知らしめることができるものであると思っている。
 現在、尖閣水域における中国海警部の公船の跳梁ぶりがエスカレートしている。日米首脳の電話会談でトランプ政権と同様に「南西諸島は日米安保の対象」との言質を得たとされているが、アメリカの対中戦略が「戦略的忍耐」に先祖返りする危険性も危惧される現状にあっては、いささか「虎の威を借りる」という忸怩たる思いを押し殺して、尖閣水域に対するアメリカの本気度を図るためにも南西諸島への米艦ポートビジットを作為・実現することで、対中メッセージとすることも考えられるのではないだろうか。
 繰り返しになるが、尖閣に対する中国の無法と圧倒的な武力に対抗するために「虎」を利用することは好ましいことではなく、「蟷螂之斧」であっても日本が自分で解決すべきことである。