もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

日本版MSCの整備に思う

2021年02月17日 | 軍事

 防衛相が、中・小型輸送艦4隻の建造と海上輸送部隊の新編計画を公表した。

 発表では、2,000㌧級の中型輸送艦一隻と数百㌧の小型輸送艦3隻を令和5年度末までに建造するとともに、艦艇の就役に合わせて海上輸送部隊を新編し、島嶼防衛のための人員部隊や軍需品の輸送に充てるとしている。
 本ブログで複数回紹介したことであるが、アメリカは海軍の輸送部隊とは別に、MSC(Military Sealift Command:軍事海上輸送司令部)という機能があって、策源地以降の上陸支援は海軍の強襲揚陸艦が、戦闘海域に展開する艦隊への補給支援は海軍が直接行うものの、本国や後方基地から策源地までの輸送はMSCが行っている。有名なところでは英領ディエゴ・ガルシアには、中東紛争に備えて1個旅団の展開に必要な軍需品を搭載したMSC所属の船舶が常時待機しているとされている。また、MSCは輸送船の他にも、音響測定、電波情報収集、測量、海洋観測等の海事・対敵情報収集に当たる船も保有しており、弾が飛んでくる可能性は低いものの、一般商船よりは危険の高い任務に当たっている。
 自分が後方支援を担当した僅かな経験からであるが、MSC所属船舶の乗員には退役軍人が多いようで、特に船長を始めとする高級士官は全て退役軍人であるように思えた。海軍の作戦に密着して運航するためには、海軍の用語、手順に通暁することが必要であり、特に海軍の護衛を受ける場合には海軍の戦術や通信・運動規則に従う必要があることから、退役軍人を中心として運航しているのであるのだろう。
 戦時輸送の歴史を辿れば、大東亜戦争開戦時には商船の半分を軍事輸送に充てるとしたものの、特に海軍による護衛等は行われなかったが、中期以降アメリカが潜水艦による通商破壊や戦時輸送阻止に注力して日本の船腹被害が増大したために、軍事輸送に関しては船団護衛方式とし輸送船団には海軍の連絡将校を、各輸送船には予備役の下級将校を乗船させて海軍との連携を図かったが、有効には機能しなかったと理解している。

 尖閣水域での紛争拡大を想定すれば、今回の海上輸送部隊構想では、沖縄までは民間船で、それ以降の戦闘海域に近く港湾施設が貧弱な島嶼への輸送は海上自衛隊が担任する構想であろうが、沖縄までの輸送にも少なからぬ危険性が有るので、民間商船が運航を拒否する可能性が残る。作戦部隊に対する作戦資材の海上輸送に関しては現有艦艇や建造予定の輸送艦で遣り繰りするとしても、戦闘地域住民への食料品を始めとする民生品については、船舶の徴用や乗組員の軍属雇用ができない日本の法体系の限界から民間船舶に依存しなければならいが、戦時(有事)の海上輸送の一部を民間の善意に期待することは危険で、万一乗員に被害が及んだ場合の補償等には問題があるように思う。やはり、策源地(沖縄)までの海上輸送を含めた輸送体制を整備することが必要であるように思うので、今回の防衛省構想を一歩進めて、輸送運航を一元管理できるとともに乗員にも自衛官と同等な任務を付与した組織とすべきではないだろうか。


「そうりゅうの事故」関連記述の訂正とお詫び

2021年02月15日 | 自衛隊

 2月9日に『潜水艦「そうりゅう」の事故に思う』と題して掲載したが、自分の早とちりが有ったので一部訂正しお詫びします。

 自分の主張の大意は「潜水艦の艦名まで公表することは敵を利するだけであるので不要』とするものであった。
 自分は、事故当時「そうりゅう」が哨戒監視の実任務に従事していたと考えて、哨戒行動の実態の重要な部分である艦名と事故海域の公表は避けるべきとしたもので、艦艇の実状を暴露しかねない情報公開は慎まなければならないという考えは変わっていないが、「そうりゅう」は検査修理後の海上試験として潜航浮上を実施していたものであった。海上試験であれば造船会社との契約など諸々の要因を考えれば、試験海域の選択にもやむを得ない面があったように思う。また、一部の報道で触れられているような、チームワークや海面確認の手順等に些かの練度低下が有ったのかも知れない。「そうりゅう」も潜舵が損傷したために浮上して帰投・回航しなければならないために、艦名の秘匿はあまり意味をなさなかったのであろうと考える。
 潜水艦勤務の経験がないので水上艦の検査・修理と教育訓練のあらましを紹介する。艦艇は概ね1年に1回(約1か月間)、入渠を伴う検査・修理を行うが、修理のための予算が潤沢でないことから「業者の能力に依存しなけれ出来ないもの」を除く作業の殆どを乗員が行い、特に錆打ちや塗装などの船体整備は、艦底・高所(マスト)部分を除いてすべて乗員が行うケースが殆どである。修理地における乗員は、兵隊さんよりもむしろ工員さんに近い勤務となるために、陸上訓練施設で代替訓練ができるものを除いては、実艦・実機による訓練は出来ないので乗員の練度は必然的に低下することとなる。更に、修理期間中に交代した乗員にとっては修理後の海上試験がぶっつけ本番の航海となり、チームワークどころではない。
 検査・修理が終わったら一定期間「慣熟訓練」の機会が与えられて練度回復に努めた後、場合によっては術科のエキスパートが配属されている部隊からの訓練指導を受ける。艦艇は、慣熟訓練や訓練指導の約1か月間近くは高度な部隊訓練や実任務には参加・従事できないとされているが、可動艦の状況によっては悠長な練度回復期間を得られないこともしばしばである。

 自分はイージス・アショアの装備断念に際して、前述した艦艇の非可動期間若しくは全能発揮に支障がある期間を念頭において、代替手段として「商船の船腹を利用した海上リグが適当と」主張したが、自民党の国防部会主導で現有のイージス艦ではない「イージスシステム搭載艦2隻建造」に決定された。艦の区分はどうであれ、船である限り艦の整備と乗員の慣熟は不可欠であり、そのためには約2か月間は正常な運用ができないことを理解した上での決定であったのだろうかとの疑念を棄て切れない。年間を通じて2隻の艦を可動させるためには最低でも3隻建造する必要があり、人員に悩む海上自衛隊にその余力はあるのだろうかとも心配している。


ワクチン輸送報道について

2021年02月14日 | コロナ

 政府はコロナワクチンの輸送等の詳細は公表しない方針である。

 今月3日には、官房長官が記者会見でワクチンの輸送・数量・保管場所等に関する報道自粛を要請していることもあって、既に12日にはベルギーからファイザー社ワクチンが成田に到着しとされるが、政府は公式には認めていない。政府がワクチン輸送の詳細を公表しないことと報道自粛を要請した理由は、製薬会社との契約、国内における無用の混乱と不測の事態を避けるためとしているが、この処置を巡っても「日本特有の反対意見」が有るらしい。自分では、政府の方針は極めて妥当なものと考えるが、反対意見として取り上げられた立教大教授(メディア論)は「ワクチン接種は義務でないために国民は情報を知った上で判断すべきであり、その材料を与えないのは本末転倒」と述べているらしい。揚げ足を採るようで申し訳ないが、義務であれば情報提供は必要でないとも取れるもので学者の論旨として如何なものであろうか。更にワクチン接種を受けるか否かの判断材料として輸送や数量の詳細という情報が必要なのだろうかも疑問に思う。
 また、教授は報道自粛要請についても「報道自粛を判断するのはメディア側の話」と続けられているが、大新聞でさえも誤報や心ない報道が後を絶たない現状からジャーナリストの質的低下が問われ、SNSもメディアの一部と捉えられる状況下でメディアの信頼性が著しく低下している中にあっても、教授はメディアの正常な判断力を信じているのだろうか。
 現在、ワクチン接種は比較的先進国で行われているためにワクチン奪取や輸送妨害などは行われていないが、これらの国にあっても接種が受けられない不法滞在者などがテロに奔る可能性も考慮する必要があり、日本への供給計画の詳細を政府が公表しメディアが拡散することでこれらの人々を刺激するケースも考えられる。このことを考えれば、教授の言う「国民に知らせるべき事項」が「他国には知らせてはならない事項」に該当する場合もあり、情報がリアルタイムに拡散する現在にあっては自国民のみ念頭に置いた情報管理は極めて危険であり、メディアにその選択を委ねることは適当ではないように思える。

 今回の情報非公開等に対する反対意見を「日本固有の意見」と書いたのは、日本の識者やメディアが情報の持つ真の意味、特に他国に対する影響を全く考慮しないことを書きたかったのである。かって朝日新聞が書いた「慰安婦強制連行」は、朝鮮人慰安婦の人権のためではなく単に軍人の蛮行を国内の反軍・反戦運動に繋げたかったものであろうが、世界中に抜き差しならぬ影響を与え、クマラスミ報告によって世界認識まで拡大した苦い経験を持っている。大手新聞記者が、自国の防衛装備について隣国の同意を問うという「メディアのガラパゴス化」が確実に起きている日本にあって、我々も知る必要がないことには目をつぶる自制が求められてもいるように思う。


ゴーン被告逃亡幇助父子の身柄引き渡し

2021年02月13日 | アメリカ

 カルロス・ゴーン被告のレバノン逃亡幇助の実行役である米国人の日本引き渡しが現実味を帯びてきた。

 実行役である元アメリカ陸軍特殊部隊員とその息子は、東京地検の要請で昨年5月にアメリカで身柄を拘束、10月に連邦地裁の判断を受けて国務省が日本への身柄引き渡しを承認、控訴によって執行が延期されていたが11日に連邦高裁が身柄引き渡しを認める判断をしたことによって、日本が彼等の供述を得て逃亡の全容を解明できる可能性が高まってきた。しかしながら、父子の弁護人が新たな法的手段を検討中とされることから、更なる紆余曲折も考えられる。
 ゴーン被告の逃亡については、当初から弘中惇一郎主任弁護士の積極的関与が疑われていた。曰く「通信が制限された状態での計画立案には身柄引受人の弘中弁護士の黙許がなければ不可能」、「日産のゴーン被告監視解除の訴えと逃亡時期の符合」、「ゴーン被告に許可された弁護士事務所PCの任意提出拒否」等々、弘中弁護士の行為は「グレイ」を通り越して「リアルブラック」そのものの色調である。
 以下は、推定無罪の原則から外れて「弘中弁護士が逃亡の片棒を担いだ」を前提とする下世話な主張である。
 人権弁護士・無罪請負人として名を馳せて「功成り名を遂げた」感ある弘中弁護士が何ゆえに、犯人逃亡幇助に奔ったのだろうか。ゴーン被告の罪状分析の結果で実刑は免れないために無罪請負人の看板に傷がつくことを恐れたのだろうか、長期に亘る未決拘留が可能な司法制度に挑戦するためであろうか、はたまた高額であろう報酬を手にするためであろうか。
 自分は、弁護士とは法律に疎い弱者のために正義と権利を行使・代弁してくれる得難い存在と思っているが、その場合においても弁護士の資格と品性は社会正義のために使用されるべきであり、冤罪の可能性、罪状、量刑は弁護の対象であっても、犯罪の事実を誤魔化すことはあってはならないように思う。素人見には明らかな犯罪と思えるゴーン被告の資産・報酬隠しや会社資産の私的流用については、弁護活動で幾ばくかの減刑を勝ち取ることが精一杯だったのではと思うので、弘中弁護士の所業は、外国人とは言え日本の商法や税法に通暁していたであろうゴーン被告の蓄財と犯行を有耶無耶にするための国外逃亡を支援若しくは黙許したもので、法曹界の汚点ともされると思っている。

 現在、アメリカ人父子の日本引き渡しを最も恐れているのは、弘中弁護士ではないだろうか。犯行の実態と弘中弁護士の関与が父子の供述で明らかになれば、弘中弁護士は一転して弁護士を必要とする被告人となる可能性が高い。
 とはいえ、推定無罪の原則に立ち返れば、弘中弁護士が強者の巨悪に手を貸したとする主張は当分(又は永遠に)封じなければならないのかも知れない。

 


バイデン幌馬車を考える

2021年02月12日 | アメリカ

 バイデン大統領が習近平主席と電話会談した。

 会談では、バイデン氏が対中強硬姿勢維持を改めて通告したとされるので、対中政策の急激な軟化という最悪の不安要素は和らいだ感がある。発足後20日を経過したバイデン政権であるが、多くの論評を眺めれば、内政不安を抱えるアメリカとバイデン政権の不安定さが窺えるようである。
 バイデン政権の現状を例えると4頭曳の幌馬車であり、1頭はオバマ政権の戦略的忍耐の反省に基づく対中強硬姿勢を、2頭目は人権擁護を、3頭目はグローバル経済への回帰・推進を、そして最後の4頭目は気候変動問題解決のために走っているように思える。2頭目までは米中対立状態を維持する政策であり、国内安定のためには大統領選史上2番目(第1位との見方もある)の投票を寄せたトランプ政策支持者に配慮する姿勢が必要なことから、当面は維持せざるを得ないと思っている。
 しかしながら、オバマケアの福祉政策に代表される民主党の目指す大きな政府には、GAFAを始めとするグローバル企業からの税収は不可欠の要素であることから、3頭目の牽引力は無視できない存在となりトランプ政権で緒に就いた中国デカップリングはなし崩し的に霧消するかも知れない。
 そして最も危険と観るのは、気候変動問題解決のために走る4頭目の存在である。既にパリ協定復帰の大統領令に署名したように、対気候変動グループはバイデン政権の内部で確固たる地位を確保しているとされている。
 3・4頭目の目指す政策・目標は、中國との協調なしには実現し得ないものであり、これらの政策実現のためには1・2頭目の力の一部を中国に差し出す懸念は拭えない。それは、香港・台湾への支援縮小であるか、東南シナ海での自由の航行作戦(プレゼンス)の変更であるか、韓国THAADの縮小であるか、在沖韓駐留兵力の縮小であるか、対北制裁の縮小であるか・・・全く予想できないが、トランプ支持者の軟化による国内融和の兆しが感じられる時点で必ずや姿を現すように思う。

 幌馬車指揮官は、幌馬車の安全を確保するためには、先住民族の利益など一切顧慮しないし時には容赦ない攻撃を加える。トランプ幌馬車隊では武装が貧弱であるが豊かな馬車には護衛するための金品(駐留経費増額)を要求したが、バイデン幌馬車隊では率いている何両かの馬車をアパッチ中国に差し出すか、差し出さないまでもアパッチ中国の略奪に観て見ぬふりをするかもしれない。
 日本にとって、どちらの指揮官に従った方が有利であるのか、興味をもって推移を見守りたいと思っているが、日本への余波が小さいことを願っている。