ジョン・ル・カレ「スマイリー三部作」の3作目読了。
ストーリーの構成と展開など小説としての完成度の高さについては評判通りだが、1970年代という時代背景の重さも味わえる一冊。
現在とは情報の絶対量が異なり、人生の選択肢も限られているという状況が、人生の不条理、組織の不合理・冷酷さなどをよりクローズアップさせている。
なら情報と選択肢が多い現在の方が幸福なのか、と考えると、そうでもないところが難しいところだ。
そして、人生の智慧は、制約の多いところから生まれるものなのかもしれない。
本書に尋問される時の心得として書かれていたことが、ストックデールの逆説と符号する。
非礼に非礼をもって対さぬこと、挑発されぬこと、得点せぬこと、機知や優越感や知性を見せぬこと、怒り、絶望、あるいはたまになにかの質問でとつぜん湧き上がる希望などに惑わされぬこと。単調には単調をもって、ルーティーンにはルーティーンをもって対すること。そして胸のいちばん奥底に、ふたつの秘密をしっかり抱いていれば、そんな屈辱にも耐えられれる。ひとつは彼らへの憎しみ、もうひとつはのぞみ--水のしずくが際限もなく石にしたたるのにも似た毎日がすぎて、ついにある日、彼らは根負けし、彼らの巨大なプロセスからやっとひとつ出てきた奇跡により、奪われていた自由をとりもどすというのぞみである。
そういう時代だったのだろう。
そして、オスカー・ワイルドの言葉も引用されている。
理想のために死んだからといって、その理想が正しいとはかぎらない。