一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

桐野夏生3冊

2011-05-08 | 乱読日記

震災以降あまり硬い本を読む気がしなかったうえに、レビューを書く気も起こらなかったので、今週からぼちぼち書こうと思います。  

まずは桐野夏生。  

桐野作品は、物語のテンポと主人公(作者?)のいらだちが緊張感を生んで、そこの「怖いもの見たさ」が病み付きになるのですが、読み始める前に「さあ読むぞ」と気合を入れる必要があるので、きっかけがないとご無沙汰してしまいます。 
それほど多作でもないしその程度がいいのかもしれません。  

今回は『東京島』の映画化の広告を見て、そういえばここ数年桐野夏生を読んでいないなとまとめ読み。  


まずはエッセイを集めた『白蛇教異端審問』  

さんざん苦労した『柔らかな頬』の第二稿を編集者から「うまく直っていない」と言われ「わかりました、これは捨てます」と言い切った桐野夏生は  

「これからどうしますか」と問われ、「別の小説を書きます」と意地で答えた。この時、『OUT』の構想が生まれた。行き場のない中年女たちの小説を書こう、と。行き場のない中年女とは、まさしく自分のことだった。  

ここが桐野作品に通低する「いらだち」だったんですね。  
この本のタイトルになった「白蛇教異端審問」は月刊誌の匿名での評論に対する反論をつづったもの。ここではストレートに作家としての覚悟が伝わってきます。
ここの争いに期せずして巻き込まれた東野圭吾の解説もいいです。



次が『東京島』  

無人島に漂着した中の唯一の女性が主人公。 
序盤ちょっと中だるみ風に感じたものの、すぐにいつものテンポを取り戻して一気に読ませます。 
主人公だけではなく漂着した中での突出したキャラクター数名の視線からも描くとともに後から漂着した外国人との対比することで現代日本社会の批評にもなっています。 
頼るべき組織がない、とか、気がついたら周りはすべて敵であるというときにはオバサンの方が強さを発揮できるのかもしれません。 
その意味では現代日本の「男社会」への批評でしょうか。  

映画の公式サイトを見ると、主人公役の木村多江は美人すぎるし、その他の日本人漂着者もイケメンでしかも小奇麗に過ぎる感じがします。 
興行的には正解なのでしょうが、もっとドロドロした感じの映画にしてほしかったなと。


最後が『魂萌え!』  

夫が急死したあとに起こる様々な出来事に困惑したり怒ったりと翻弄される女性の話。 
ただ、人生は、それぞれの人生を自分勝手に送っている周囲の人と関わりながら進んでいくので、「試練を乗り越え新しい自分を発見する」とは綺麗にまとめていないところがいいです。 
僕は主人公を取り巻くはた迷惑な男の側なのですが、妙に主人公に共感できます。

 


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