昨年のBSフジ「プライムニュース」の連続提言企画を新書化したもの。
(元になった番組は知りませんでした)
番組のコーディネーター役の宮本太郎北海道大学教授(本書の編者)の主張のポイントはつぎのとおり
1.全員参加型の社会-現役世代の社会参加を保証するしくみをつくる
2.社会保障と経済の相乗的発展
3.生活保障の再生を通じてのつながりの再構築
4.未来への投資としての次世代育成
これについてはあまり異論はないのですが、ではどうすればいいかとなると、なかなかいい解決策がない。「鶏が先か卵が先か」の議論になってしまうという難しさも本書は示しています。
いちばん参考になったのは「第5章 財源をどうするのか」
国際比較の中で、日本の社会保障制度がお金を使っている割に上手くいっていないことが示されます。
まずは「純合計社会支出」
税・社会保障に個人年金や医療費の自己負担など国民が福祉や生活の保障のために使っているお金の合計です。
本書では、高福祉のノルウェーより高い(お金の使い方が下手)という文脈でふれられていますが、これだけを見るとアメリカなどより低く、国民皆保険のメリットが出ているようにも思います。
ちなみに、本書の別の箇所によると、医療費の対GDP比はOECD諸国で最低と健康保険はコストパフォーマンスがいいようです。
ただ、そのあとは「お金の使い方の下手さ」の証拠のオンパレードになります。
現役世代の相対的貧困率(可処分所得が全国民の中央値の半分に満たない国民の割合)
OECD諸国で日本は第4位です。
実は日本は、税や社会保険料などを引かれる前の市場所得(当初所得)については、現役世代の相対貧困率はOECD諸国の中で低いほうから2番目で、再分配がいかに機能していないか、ということになります。
さらに「直接税と社会保障現金給付による貧困削減率」
日本は貧困削減率が低いだけでなく、制度自体が男性稼ぎ主が妻子を養う世帯をモデルにしたものなので、「共稼ぎ、一人親、単身」ではマイナス=再分配を受けると相対的貧困率が高くなってしまっています。
そもそも日本は子供の総人口に占める貧困世帯に属する割合がOECD諸国でも高いほうらしいのですが、再分配でそれがさらに助長されてしまっています。
本書は手厳しくこう指摘します。
日本の制度は結果としてみるならば、働くことも罰するが、子供を生み育てることも罰していると言っていい
また、社会保障支出の高齢者向け・現役世代向け割合(このグラフは別の章から)を見ると
よく言われるように高齢者世代に偏重していますが、本書によれば、それにもかかわらず日本では高齢者の貧困率が20%を超えていて、OECD諸国の中では7位と高い。
つまり高齢者にお金をたくさん使っているのに貧困を抑えられていないということになります。
特に高齢世代の方が現役世代より所得格差が大きいというのはOECD諸国の中では珍しいそうです。
ここでの論者は、高額所得者に対する年金所得も含めた課税(現在は公的年金等控除あり)を主張しています。
ただこれは企業経営者に対しては有効かもしれませんが、利子・配当所得など資産からの収入を主としている高齢者に対しては効果が薄く、では利子・配当の分離課税をやめる、となると実現性が薄い(相当時間がかかる)ようにも思います。
実際のところどれくらいの効果があるのか試算してみるべきだと思います(誰かがやっていそうですが)
最後に「第6章 政治をどう変えるか」に登場する印象に残った言葉。
藤井裕久議員が引用した、高橋是清の
「政治に信頼があれば、金は出てくる」
『高橋是清自伝』の苦労話を思い出してしまいました。さすがです。
「税と社会保障の一体改革」と言われながら「と」から「一体」までが棚上げされて消費税増税議論だけが焦点になるような気配もある中で、社会保障をめぐる論点の簡単なおさらいには参考になると思います。