中秋の名月は、豆名月とも芋名月ともいわれる。
来月にもなれば、東北各地では「芋煮会」がさかんに行われる。
コースの幕開きは「芋名月」と名付けられたアミューズ。
ガラス器の中に、桜のチップの煙が満ちて運ばれてくる。
チョリソーが潜んだ小さなコロッケが1個、軽くスモークされている。
(「あまから手帖」9月号のとびらに関連記事あり)
香ばしい。あと2個は欲しい。
惜しむらくは、サービスの女性がガラスのふたを取ってしまったこと。
これは客にさせるべき。店主は客によってタイミングがまちまちに
なることを懸念していたが、そこはサービスが客のそばに立ち、誤らぬ
ように注意すればいい話。
ピスタチオのクリームを挟んだウエハース
タイルの皿はキンキンに冷えている。サクッと冷たいお菓子。
オーストリアのグラスワイン白を所望。
チーズに埋め込んだプチトマト
イカ墨のボーロ
デザインの妙。シャレたおつまみといった感じ。
鮎の化石
鮎の骨抜きをした骨を乾燥させ、から揚げにしてクミンなど
スパイスがきかせてある。周囲はアーモンドのパウダー。
標本のようにしてある。シャリっ、コリッ・・・
思わず、「身は何処へ?」と尋ねる。
先月のコースの客が食ったようだ。
だまって、この袋が出される。
こりゃなんだ? 液体の中に、巻貝がひとつ。
次の料理の上で割るのか・・・口の中で噛み切るのだ・・・
おでこに乗せる・・・いろいろ推理していると、次の皿が。
磯の香りの風船・フランとイクラ
奨められたように、風船の底を嗅ぐと、海の匂いがした。
これを嗅ぎながらイクラが乗ったフランをアツアツのスプーンで。
なかなかの趣向だが、面倒な割にはイメージはひとつになって
くれなかった。
液体は汲んできた海水で、さらに昆布で香りを強化してある。
自家製焼きたてのパン
北海道噴火湾のボタンエビ
ゆうに10cmはある。フィンガーボールが出て、これはダイナミックに
手づかみで。頭の味噌が、コバルトブルーの卵が美味い。
身がとろ~り。かすかに火が通してある。
気泡をたくさん含ませたトリュフのパン
エアーイン、ふわふわの蒸しパン。トリュフオイルをたっぷりと
使ってある。
小さな筒型パスタ・渡り蟹とミモレットのソース
短いマカロニ状のショートパスタ。食べ続けるとスパイシー。
黒いカプセルが人数分出される。
最初にメニューをもらっていないと、軽いパニックになりそう。
実はカプセルの中には、トリュフソース。
フィルムに包んだ熱いトマトと和牛肉のエキス、
トリュフ風味カプセル
200度まで耐えられるフィルム。オーブンに直に入れて12分。
袋を切り開き、カプセルのトリュフソースをポン。
溶けるのを待って食べる。濃厚スープはスプーンで残さず
掬い上げた。
ピュアなオリーブオイルとトマトのスープ
トマトから抽出した黄金色のジュース。
オリーブオイルがジェラートになるとは寡聞にして知らなんだ!
うなぎのソテー・黄色ピーマンの酵母ソース
白焼きしたうなぎ、皮がパリパリに香ばしく焼かれている。
イベリコ豚のロースト ミョウガ、エシャロット
脂が美味い。ミョウガが合う。
メインの魚や肉になると、急にフレンチに近くなるのは微笑ましい。
イチジク、海水とバラのゼリー、グレープフルーツのジェラート
酸味と塩味、バラの香り
ティラミス 指でつまめるひとくちサイズ
クルミの液体窒素ガラピニャーダ
すぐに溶けるので、指を伸ばして下さいとの注釈つき。
ガラピニャーダはナッツに飴をからめたプラリネ風のスペイン菓子。
ヒヤッと快感。カリッと噛むとクルミの香ばしさ。
温かいレモンのマシュマロ、オルチャータのスープ。
オルチャータとはチュファという球根の絞り汁に砂糖などで味をつけた
ミルクに似たスペインの飲み物。
卵白のマシュマロはシュワッと口解け、レモンの酸っぱさ。
食後酒 自家製リキュール
右から、梅・ビワ・イチゴ・バジル&トマト・アメリカンチェリー
重厚な砂糖壷
エスプレッソ
店主・藤原哲也さんは、まだ35歳。
スペインの先端を行く料理に影響を受け、調理用具なども入手して
実験室のような厨房で作る全17品。小さい料理のあとに手づかみの
海老など、仕掛けがいろいろあり、なかなか愉しめた。
「エンターテインメントですね、楽しませてもらいました」というと、「そういうつもりではなくて、エンターテインメントなら東京にいくつもそういう店があるので、そちらの方に」と、そういう感じの返しがあった。
うちは料理で直球勝負してると言いたかったのかな。
即座には真意が分からなかったが、余りに表層的な、端歩を突くとか鬼面人を驚かす的な評価と勘違いしたのかもしれん。
演出の妙であったり、推理させたり、小さな驚きを与えたりするのだから、これは立派にエンターテインメントだと思うのだが。
そうでなくとも、料理とは上質なエンターテインメントであると考える。
美味いだけでは不十分で、愉しかった・・・こう言わせたら料理人としては本望だと思うのだが、ちがうかな。
気鋭の料理人としては、それでは不満足なのかもしれないけど。
背中合わせにある店でお父さんが洋食屋さんをやっているそう。
そっちへも行ってみたい。
Fujiya 1935 大阪市中央区槍屋町2