一枚の写真がある。
何の本だったか、さだかではないが、
昭和30年代、屋台のわらびもち屋のおっさんが、ポン菓子屋のおっさんとすれ違う瞬間。
屋台の進行方向で屋台につかまってるガキがいるが、轢かれるぞ。
ボクらもまさにこんな屋台を目の辺りにしていた年代。
親は「あれは衛生的ではないからアカン!」と言ってたが、腹へらし小僧としては興味津々。
ピンクに緑に白、黄色などきれいな粉を積んでる屋台のおっさんの所作を飽きずに眺めたものだ。
あの緑は青のり粉だろう。
だが、わらびもちに使うと聞いたことが無いので、ずっと引っ掛かっていた。
長じて、大島渚の「太陽の墓場」を見た時、冒頭、西成の屋台が出てきて、わらびもちと並び、
しがらき…とあった。これだ!
それから、ずっとしがらきが気になって気になって、この日、出入橋に足を延ばした。
この右斜め上方向に、JR大阪駅の貨物レーンがあり、そこに引き込まれていた水路。
梅田入堀川にかかっていた、これが出入橋。
水路は埋め立てられ、橋はただの道となっている。
ここに昭和の初めからあるのが、出入橋のきんつば屋。
織田作之助の小説「アドバルーン」にも出てくる。
オダサクはデカダンやなんか偽悪ぶっても、下戸の甘党であった。
ここで、今となっては絶滅危惧種である「しがらき」が喰えるという。
なに、うちの近所には普通にあるよっていう神戸方面の人がいるかもしれぬが、
ここは話を合わせて、進行させてくれえ。
昼さがり、店内には女性しかいない。
まかり間違って、オッサン侵入してしまったみたいぢゃねえか。
きんつば焼いてるオッサンと目が合ってしまう。軽く会釈する。む…無視かえ。
左にはかき氷の女性二人。 右にはなんだかあんこものを食ってる二人。
去年フラレたので、一年半ほど待ったことになろうか。
慌てず、騒がず、おばちゃんに、「しがらきください…」
しばし、来たのがこれ。
わらびもちと一緒に売りに来た、夏の菓子と聞いていたので、
もうちょっと、ツルンとした、あんぺいのようなものを想像していた。
ちょっと見にくいから、反転。
長いもの輪切りのように見えるのは、半ごろしのもち米。
それ自体には味は無く、砂糖ときな粉・つぶあんが載っている。
昼くった後にこれは、なかなかヘビー。
全体に冷してあるが、 びっくりするほど冷たくはない。
夏のおはぎ・・・そういってもらえた方が分かりやすい。
もち米のブツブツした質感が、信楽焼きに似ているからこの名前があるとか。
根強いファンはいるだろうが、そないにおはぎが好きではない単なる酒飲みには、
なかなか、どうして、のつこつと、喉の通りが悪い食いものである。
お茶の存在が、有難い。
しがらきの皿を前に奮闘するおっさん独り。かなり奇異に見えたろう。
好奇心だけで手を出してしまったが、いや、やはり、こいつばかりは喰ってみないとわからない。
しがらき…いつまでも生き延びてくれることを、願わずにはいられない。
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