古今和歌集巻第二十
雑 神歌 おほなほびのうた
あたらしきとしのはじめにかくしこそ ちとせをかねてたのしよをへめ
(半切略1/2大)(古今和歌集第1069番歌)
「高野切古今集[第一種]」(日本名跡叢刊 二玄社 小松茂美氏監修・解説)から。
(“かくしこそ”の“し”は強調、“予(か)ねて”は将来を見越して
・・・との解説を参考に、勝手に漢字を当てれば)
大直毘の歌
新しき年の始めに斯くしこそ 千歳を予ねて楽し代を経め
久しぶりに・・・といっても2ヵ月ちょっとですが・・・書道の筆をとりました。
やはり、リズム感と言いますかテンポがあり、書いていてスッキリした気分になります。
根っから書道が好きなのでしょう。
仮名書道の最高峰とされる高野切第一種の書風は、
先に臨書しました巻第一だけでなく最後の巻である巻第二十も同じ書風です。
今回からはその内の数首を拡大臨書してみようと思います。
巻第二十は、①大歌所御歌、②神遊びの歌、③東歌の三つで構成(配置もこの順番)されているようです。
①大歌所御歌とは、宮中の大歌所(おおうたどころ:歌を管理する役所)が収集した歌でこれが5首、
②神遊びの歌とは神楽歌の古称で、
とりもの(神楽で、舞人が手に持って舞う物)の歌やひるめ(天照大御神)の歌、大嘗祭の歌など13首、
③東歌(あずまうた)は、古代日本の東国地方の人々の歌で、
万葉集では多いようですが、
古今和歌集では少なく、“みちのくにうた”など14首(高野切は12首)、
となっています。
巻第二十の全32首中、2首だけが読み人の名前が記入されていますが、他は全部無記名とか。
そして今回の歌です。
先に述べました①大歌所御歌の最初の歌で「おほなほびのうた」(大直毘(の神)の歌)から始まっています。
恥ずかしながら、自分にはこの神様がどういう方なのか存じ上げません。
これでは歌の解釈もできません。
そこで辞書その他ネット等で調べてみました。
『大直毘(大直日)の神』とは、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)の御子で、
物忌みを平常に復し、凶事を吉事に変える力を持った神、禍や穢れを改め直す神、
・・・等々とあり、大変有難い神様だと分かりました。
然らば、大直毘(大直日)の神の歌とはどういう歌なのか?
一般的にはこの大直毘(大直日)の神を祭る時の歌とされているようですが、
神事の後の直会(なおらい:祭事が終わり神酒や供物をさげて参列者がこれを頂く宴会)の歌
という説もあるようです。
そしてこの歌の意味はとなりますと、
大きな意味では、前述しましたこの神様の有難さ(凶を吉に変える力など)と
歌にあるキーワード(新しい年の初め、千年先、楽しみ)を
結び付けて解釈すべきなのでしょう。
この歌を、神様側からみれば、末永く楽しみなさいとのお言葉にもなりましょうし、
神様を崇め招く側(人々)からみれば、自分たちの楽しみのバックにはありがたい神様がいらっしゃる、
・・・などの気脈があるのでしょう。
大きい構図はそういうことではないかと。
しかし解釈の細部となると行き詰ってしまう個所もあります。
それは特にこの歌の最後の7文字「たのしよをへめ」には、
文献によって違いがあるからです。
高野切の“たのしよをへめ”(楽し代を経め)のほか
“たのしきをつめ”(楽しきを積め)、
“たのしきをへめ”(楽しきを経め)
などがあるようで、それぞれの解釈ができるのでしょう。
ネット上の文献からは、藤原定家本をはじめ、
上の二番目“たのしきをつめ”(楽しきを積め)が圧倒的に多いようです。
このことと合わせ考えますに、あくまで素人の推論でありますが、
この7文字の元の仮名は“たのし支をつめ”とあったのが、
書写を繰り返す中で、
“支”は“よ”と、“つ”は“へ”と誤写されたのではないか、と勝手に思っています。
現に上の臨書した文字も、“よ”と“へ”は微妙といえば微妙であります。
どうせ色々探っても、確定的なことは分かるはずもありません。
素直に書道だけを勤しんでいればよいものを、
またまた余計なことをしてしまったようです。
これこそが上手になる根っこだと思います。
人それぞれに特性があり好みは違うと思いますが、これがなければ中々続かないでしょう。これがあるから続けることも出来るし向上心も沸くのではと思います。
さて、作品ですが、全般のバランス、筆の走り、墨の濃淡、字の強弱等々お見事だと思います。すっきりする気持ちが良く分かります。
私は書は全く分からないので、全体のバランスとか文字の濃淡、筆運びの美しさなど絵画鑑賞に近い見物人でしかありません。
そのため、即解説を読みに行ってしまいます。
あくない探求心に深堀解釈、脱帽です。
見当違いのコメントで失礼ですが、最近テレビのアナウンサーやコメンテーターなどが発する怪しい日本語に腹を立てています。
作者のように日本語の真実を追求する世界との格差に驚きを隠せません。