中山投手(高知商)の一球一球に甲子園球場がどよめき揺れ動いた。スタンドを魅了したのは時速145㌔の快速球。ネット裏にはプロ全12球団のスカウトが集結、中には複数のスカウトがスピードガンを持参し球速を測定していた球団も。測定する位置や角度で多少の誤差はあるものの平均すると143㌔、最速は145㌔だった。あの " 阿波の金太郎 " こと水野投手(現巨人)以来の球速だ。今春のセンバツ大会で優勝した伊野商の渡辺投手でも144㌔だった。「中山投手を2位指名なんて言ったら笑われますよ。速さだけじゃなく安定したフォームで投げている。我々は選手の欠点を見つけるのも仕事だけど中山投手に関しては文句なしです(広島・宮川スカウト)」とべた褒めなのだ。
プロの評価がウナギ登りの中山だが、ここまでの道のりは厳しかった。昭和58年のPL学園戦で津野投手(現日ハム)を救援して3回 2/3 を無失点で投げ切り、颯爽と甲子園デビューを果たした。だがその後は持病の腰痛に苦しめられ思うような投球が出来ず落ち込んだ。それもようやく完治し甲子園に帰って来た。試合後には「力んで後半はへばってしまいました。四球から失点したのは僕の悪い癖で反省しています。次も気持ちを入れ替えて頑張ります。是非優勝して監督さんに恩返しをしたいです」と言い切った。果たして桑田・清原を擁するPL学園との甲子園デビュー戦以来の再戦は実現するのか注目である。
そのPL学園だが大会7日目まで出番がない。大会は14日間の日程だから " 中日 " までPL学園が姿を現さないのは興行的にも痛手である。甲子園球場の周辺では閑古鳥が鳴いている店もチラホラ。対戦の日程はクジ引きで決まるので誰のせいでもないのだが、主催者側もため息を吐いている。当のPL学園の選手達も戸惑いを隠せないが名将・中村監督に抜かりはない。試合までの6日間を有効に使っている。野手には走塁やバント、連携プレーなど基本練習を繰り返して行なう一方で桑田投手ら投手陣にはノースローデイを設けるなどメリハリを付けた練習を行い緊張感を絶やさないように工夫している。
「最後の甲子園といった感慨はありません。自分の持てる力をフルに出すことだけを考えています。対戦相手のことより自分の調整で頭がいっぱいです」と桑田は対戦相手の東海大山形のデータには無関心のようで相変わらずのクールで黙々と練習に取り組んでいた。一方の清原は開会式が始まる前に昨年の優勝校の取手二高の坂詰主将が持っていた優勝旗を借り、握りしめて「重いなぁ、ズシリとくる」と神妙にポツリ。単に重かったのか、それとも2年ぶりのV奪回を達成するまでの過程のしんどさを想像しているのか、普段の大らかな清原からは想像できない程の真剣さをうかがえる違った一面を見せた。
徳島商が20年ぶりに勝利の校歌を聞いて森岡監督や選手達は感無量であっただろう。東邦戦のスコアボートには初回から「3」「1」「4」…と得点が並んだ。終わってみれば何と大会記録が2つ( 両チーム合わせて12二塁打、最多塁打56 )出るなどの大乱打戦だった。この試合のヒーローは徳島商の五番打者の松井選手。2本塁打を含む5打数5安打5打点の大活躍で「自分で自分に驚いています。これを本当のバカ当たりと言うのでしょうが、まさかこんな晴れ舞台で打てるなんて(松井)」と本人が一番驚いている。森岡監督にとっては就任以来 " 五度目の正直 " がようやく叶い、長過ぎた空白にようやく終止符を打てて試合後には涙を流した。
監督つながりの話では名物監督が甲子園に帰って来た。沖縄水産高の栽監督である。自身のCM出演が学生野球憲章に抵触すると判断され、昨年は1年間の謹慎処分を強いられた。激戦の沖縄予選を制して本大会1回戦では函館有斗高に快勝し、「再び甲子園で野球が出来る喜びでいっぱいです。ウチは決して強いチームではないので一つ勝てて大満足です」と笑顔を見せた。甲子園は豊見城を率いて以来で7年ぶり。目の具合が良くなく普段はサングラスをして目を保護しているが甲子園では外すようにしているのも栽監督らしい。昨年のショックを乗り越えての勝利だっただけに勝利インタビューでは熱いモノがこみ上げ目は真っ赤に充血していた。
昨年までの入場行進は学校名の紹介もなく、ただ続々と行進するだけで味気なかったが今年から「〇〇県代表・◆◆高等学校」と場内アナウンスするようになった。その大役を担ったのが西條靖子さん(21歳)。「緊張しました。間違いないように、ただそれだけに神経を使いました。無事に終われてホッとしています」と当日を振り返った。ただ開会式の入場者数は4万2千人でアルプス席や内野席には空席が目立った。熱心なファンの中には徹夜組もいたが、常連校のPL学園や高知商らは出場しているが今センバツ大会を制した伊野商やベスト4だった池田高が予選で姿を消し出場していない事も影響しているのかもしれない。
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