「プロ野球界発展の為に抜本的に考え直さねばならない時期に差し掛かっている。その一つの具体案として東西に分けて2リーグとし、公式戦の中に東西交流戦も含めるというプランを今シーズン終了後にでも提案しようと考えている」と南海・川勝オーナーが発言して球界に大きな波紋を呼んだ。「とんでもない無責任な発言」「面白い提案だ」と様々な声が寄せられているが、何故この時期に責任ある立場の人物がこの様な発言をしたのかと球界関係者は衝撃を受けている。
それは川勝オーナーと報道関係者との新年懇談会での出来事だった。「プレスの皆さんとも久しぶりだねぇ」と懇談は和やかに始まった。今年は南海グループとして悲願の関西新空港(泉州沖)の建設がスタートする年で球団も穴吹監督を先頭に再生を計ろうと激励し、パ・リーグは10年ぶりに1シーズン制に戻した事に加えて球界発展の為に更なる振興策を考える必要がある、と淡々と語り出した。それが爆弾発言に向かいだしたのは日本シリーズでのDH制導入に関する話題に差し掛かったあたりから。「セ・リーグのオーナーの中に下田コミッショナーに対して失礼な発言をする人がいる」「パ・リーグごときが何を言うか…という調子で我々を軽視する風潮が目に余る。自分達(セ・リーグ)さえ良ければ他(パ・リーグ)はどうなっても構わないという態度は許せない」など何時しかセ・リーグ批判を展開するようになった。
プロ野球界は共存共栄体で経済界の競争社会とは質を異にする世界。皆で共存体制を作る努力をしなければならないとし「誰かが抜本的な発言をしなければ今のぬるま湯ムードは変えられない」と語った。すると記者から「その為の具体的なプランをお持ちなのか?」と問われ返答したのが例の東西2リーグ制だった。実は川勝オーナーは以前(昭和56年)に1リーグ制を提唱した事があった。しかし日本シリーズというプロ野球界最大のクライマックスを失う事に球界内外に反対の声が多くアッサリ撤回した。今回の東西2リーグ制は日本シリーズに代わる「日本一決定戦」もあり、共存共栄で球界全体を考えるという正論に川勝オーナーも自信ありげだ。
1リーグ制と言えば思い出されるのは昭和41年だ。日生球場のフランチャイズ問題で南海と近鉄が対立した。南海が大阪球場で試合をする期間、近鉄は日生球場で試合を行わないという取り決めを近鉄が守っていないと南海が抗議した。当事者間では解決せず当時の東京オリオンズ・永田オーナーが間に入った事で鎮静化どころか逆に大騒動に発展してしまった。予てより1リーグ制を模索していた永田オーナーは近鉄・佐伯オーナーに南海との合併を薦めるとフランチャイズ制の解決という大義名分があるのなら、と球団経営に苦労していた佐伯オーナーが話に乗った。これを機に永田オーナーは「東京と大洋」「東映とヤクルト」の合併を画策し大勢が1リーグ制に傾いたが巨人、阪神、中日が猛反対して立ち消えとなった。
また昭和48年にも1リーグ制騒動が起きた。この時の中心人物は太平洋クラブ・中村オーナーで横浜市が市内に新球場を建設する際に橋頭堡よろしく太平洋と大洋との合併を目論んだ。他にも「広島と日拓」「ヤクルトとロッテ」「近鉄と南海」の合併話の橋渡しをしたが、この時も人気球団の反対に合い頓挫した。奇遇だが中心人物2人のオーナーが所有する東京オリオンズと太平洋クラブライオンズはその後、球団身売りに追い込まれた。今回の川勝オーナーは先人の轍を踏む事のないように1リーグ制ではなく2リーグ制は維持するとしているが評判は芳しくない。
「抜本的に考えなければならないのは先ずは南海球団の運営方針ではないのか」とあるセ・リーグ球団幹部は言う。関西リーグの一員に擬せられたセ・リーグ球団の関係者は「結局は我々と試合をしたい、東西交流試合を打ち出したのも巨人とやりたいという事でしょ」と素っ気ない。さらに同じパ・リーグの関係者も「ユニークなアイデアだが、いざ現実となると…」「相手(セ)がある事だからねぇ」とかいささか当惑顔といったところ。キャンプも始まりいよいよ球春到来というこの時期に何故あの様な発言をしたのかと問われた川勝オーナーは「実は昨年のオフに言おうと考えていたのだがチームがあの成績(最下位)では聞く耳を持って貰えないと思い言いそびれた」と。
昨年まで5年連続Bクラス、スター選手不在とあって減り続ける観客動員数。昨年の総入場者数は12球団最少の43万9千人で、これは巨人や阪神なら10試合で越えてしまう数字だ。大阪球場の立地条件は後楽園球場に匹敵するくらいなのに大阪球場の経営も野球ではなく競馬の場外馬券売り場や球場施設内にある特殊学校の賃貸料で支えられているのが現状。これまで何度も球団身売り話が出ては、その度に「南海グループとして絶対に手放さない」と否定してきたが慢性的な赤字経営は事実。東西2リーグ制は南海にとっては良薬かもしれないがプロ野球界には存亡に関わる劇薬となりかねない。
今では巨人の人気も落ちてセ・パの差は昔ほどではなくなりましたね。むしろ高校・大学の有力選手の多くがパに集まって注目度ではセを上回った感もします。セ・リーグは「驕る平家は久しからず」を地で行ってますね…
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