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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 409 放任 or 管理

2016年01月13日 | 1984 年 



広岡西武の連覇で技術はもとより食生活まで立ち入る管理野球が持て囃されている現在のプロ野球界。昨年までは「(草食の)ヤギさんチーム」と白い目で見ていた大沢監督が退任した日ハムは " 反管理野球 " を継承するかと思いきや植村新監督は本家の西武の上を行く " 超 " が付く管理野球を導入する。一方でロッテの新監督に就任した稲尾監督は自らの豪放磊落なイメージ通り「管理野球なんぞ糞くらえ」とばかりの " 自主管理野球 " をブチ上げた。稲尾監督は「ワシらの時代の選手は自主管理が出来ていた。フトッさん(中西現ヤクルトコーチ)は酒を浴びるほど飲んでどんなに遅く帰っても宿舎での素振りは欠かさなかった。ヒロさん(広岡監督)が西武で厳しく管理するのは今の選手が自分で管理出来ないから。現に広岡イズムを理解している選手には調整を任せている」としロッテでも自己管理が出来る選手、例えば落合などには「彼は今のままで結構。あれで3年連続首位打者と結果を出している。周りでとやかく指図する必要はない」として放任を宣言した。

自主トレ真っ最中の1月12日、「アルコール、麻雀、ゴルフ、全てOK。ただし陽気にそして程々に」と所信表明した。「放任主義?そう思ってもらって結構です。ここ3年ほどでロッテには暗いイメージが付いてしまった。これで少しでも悪いイメージが払拭出来るのであれば放任だろうが何でもいい」と稲尾監督は熱く語る。監督として広岡監督に立ち向かう以上、同じ管理野球の後追いでは先頭を疾走する西武には勝てない。相手が管理野球なら正反対の野球で打倒西武を達成しようという訳だ。具体的にロッテが抱える問題への対処は先ず第一にチーム防御率の向上。被本塁打数と共に防御率はリーグ最悪で「球団が私に託したのは投手陣の再建だと認識している。新任の佐藤投手コーチと二人三脚で立て直したい」 幸い井辺、石川、トレードで大洋から獲得した右田など有望株は多く「一朝一夕にはいかないだろうが徐々にレベルアップを計りたい(稲尾監督)」と。

第二に有藤の再生。稲尾監督は「これこそウチの最大のテーマ」と強調する。守備力の低下を理由に有藤本人が外野へのコンバートを申し出た。稲尾監督は「本人と話し合う予定だが伝え聞く所によると我が儘によるものではないようだ。空いた三塁に落合、一塁に移籍して来た山本功をキャンプで試そうと考えている。チームリーダーとして有藤は欠かせない。外野で有藤が生き返るのなら断行する価値はある」と前向き。更にはまだ私案の域を越えないが野手転向を決めたばかりの愛甲を投手との二刀流を考えている。左腕投手の中継ぎ、ワンポイントが不足しているチーム事情から近鉄時代の三原監督が永淵を投打で起用して以来の珍事が再現される可能性がある。監督に就任したのが11月10日、その後の26日の納会に出席し選手達と顔を会わせた際に有藤や水上らが口を揃えて「監督、勝ちましょう」「僕らは肩身の狭い思いをしています。勝負事は勝たなくちゃ駄目、是非とも優勝しましょう」と迫ってきた。

「コイツらは勝つ事に飢えている。勝ちたい意欲さえ失っていなければ見込みはある」と稲尾監督はロッテ再建に手応えを感じている。また「どう分析しても投手力が他球団と比較して劣っている。ならば今季のウチは " 攻撃は最大の防御なり " で、打撃陣で投手陣を育てていく策を取らざるを得ない。だから打者連中にはグラウンド以外では何も言わず自由にさせるが試合には実力がある選手しか使わない。持てる力の120%を出せ、そして明るく陽気に野球をやろう!それが今季のモットーだ」「正直言っていきなり優勝するのは難しいだろうが3年以内に優勝争いの輪に入れるだけの力を蓄えたい」と付け加えた。「打倒西武とかは対等に戦える力を得てから口にすべき事で今のロッテは他所様の事をあれこれ考えている場合ではない。ただ言えるのはどこぞのチームを真似た二番煎じをやる気は毛頭ない。ウチは独創的な野球をやるよ、これ以上負けても " 7位 " になる事はないしね」と明るく答えた。

片や日ハムの植村新監督は管理野球を掲げる。それも本家の広岡野球の上をいく超・管理野球だ。その引締めぶりは群を抜いている。球界中を驚かせたのが罰金の増額で、遅刻が5万円也。昨年までは5千円だったので一気に10倍に。他には門限破りが1万円から10万円に、サインの見落としは1万円、チームバッティング違反が2万円など軒並み増額した。1月8日に始まった合同自主トレでは初日の監督訓示に僅か3分ほど間に合わなかった岡持は練習自体には遅れなかったので5万円は逃れたものの昨年並みの5千円を徴収された。更に昨年の暮れに全選手に申告させたベスト体重をオーバーしている選手から「1kg につき1万円」を徴収するなど被害者が続出した。集められた罰金は首脳陣の監査の下、高代選手会長ら選手会三役が管理しオフに反省会を開催する事になっているが早くも「優勝しなくても皆でハワイ旅行が出来そう」と皮肉な期待を抱くナインもいる。

植村監督がこうした厳罰主義をはじめ徹底した管理野球を打ち出した裏には「西武という厳しい管理の下に置かれたチームが覇権を握っている事は事実。自由・放任主義で勝てれば文句は無いが勝負事は勝ってこそ官軍。西武に追いつき追い越すにはより厳しくするのは当然」との見解がある。もっとも罰金だけなら大した問題ではない。所詮は金銭でカタがつく。選手達を奈落の底へ突き落したのが自主トレから始まりキャンプの50日間ブッ通し休みなしのスケジュールだ。「ここ数年はスタートダッシュに失敗している。これを打破するにはキャンプの成否が決め手だ」という植村監督の考えから名護キャンプでは徹底したスパルタ主義を貫くと宣言した。先ず開始時刻は10時と決めているが終了時刻は未定。その為、夕食は各自が適宜摂るとしている。更に夜は名護球場内に照明付きのマシーン6基を常設して宿舎から送迎バスを手配している。参加は自由だが事実上の強制夜間練習である。

食事面にも植村監督の目が注がれて怪我防止の為にアルカリ性の体質に変える事を目指す。お茶やコーヒー・紅茶を禁止しウーロン茶を推奨。夕食にはワカメやジャコ・丸干し料理が並び、ビールではなくワインを飲む。日ハム本社からの毎日空輸される差し入れの肉を食べる際には必ず肉と同じ量の野菜を摂る事を義務付ける。選手に人気の鉄板焼きの脇にはマネージャーが立って目を光らせるなど徹底させる。肉だけのおかわりは許さないさしずめ病院並みだ。加えてタバコに関しても練習中は勿論厳禁だが朝食前に一服する事さえ禁止に。これまでおにぎりがメインだった昼食も今年はサンドイッチにスープといった軽食で済ませ、喉を潤す炭酸飲料水は排除しジューサーを球場に持ち込んで地元沖縄産新鮮果物の天然ジュースを飲ませるというから念が入っている。

極めつけが私生活の管理。キャンプ中の暇つぶしの定番のパチンコ、スロットマシン、麻雀、TVゲームは「熱中する余り長時間同じ姿勢のせいで腰痛や肩こりの原因になり得る」として時間制限される事に。実は過去にスロットに嵌り大事な利き腕を痛めた選手がいた。だからと言っていい歳の大人が私生活まで管理される事に「夜はどうすりゃいいんだ?」と茫然自失状態。広岡監督はもとより高校球児もビックリの超・管理野球に、これまで8年間も放任主義の大沢監督の下で好き勝手放題にやってきた選手から「天国から地獄だ」の嘆き節が聞こえて来る。しかし柔和な物腰ながら空手三段で嘗ては " 鬼 " との異名があった植村監督は「地獄だって?地獄の向こうには本当の天国が待っているんです」と委細構わず管理野球の道をひたすら突っ走る覚悟である。

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