◆ オレもあの頃は甘かったなあ
「今、しみじみと思うのは野球をやめなくてよかったということだね」と衣笠選手は感慨深げに話す。先日の契約更改交渉ではチーム最後にサインをした。10%増でチームトップの高給取りになったとの噂がもっぱら。巷間伝えられる山本浩選手が年俸トップという話はどうやら違うらしい。衣笠は平安高から入団して3年目、主力選手でさえ国産の小型車に乗っていた時代に二軍で燻っていたにもかかわらず左ハンドルの外車を乗り回していた。「当時は見栄っ張りで野球は三流でも身の回りの品は一流品を好んでいた(衣笠)」そうで、野球が上手くならない自分への腹いせで捨て鉢な気持ちになっていたという。
そんな時、合宿所の近所で民家の塀に車をぶつける自損事故を起こしてしまった。幸いにも事故に巻き込まれた人はおらず、衣笠自身も怪我はなかったが、みかねた球団側は「野球に身を入れろ」と叱責し即座に運転免許証を没収した。これに対して衣笠はオモチャを取り上げられた子供のように駄々をこねて本気で野球をやめようと思ったのである。そんな衣笠も今では年俸二千万円に近い高給取りでプロ生活13年目を迎える。「いま振り返るとあの頃は、考えが甘かった。免許証を没収されなかったらこんなに給料を取れる選手になっていなかっただろう。本当に球団には感謝している(衣笠)」と述懐する。
◆ 球団初の新人王へ
プロ入り2年目を迎えた北別府投手は新人王獲得に意欲的だ。郷里の鹿児島県曽於郡末吉町で正月休み返上で連日3時間に及ぶトレーニングを続けている。昨年は2勝1敗と高卒1年目としては上々の成績。カープの高卒新人投手が勝ち星をあげたのは昭和46年入団の佐伯投手(現日ハム)以来だけに、球団幹部が本気で「(北別府に)新人王を獲らせる」と大騒ぎするのも無理はない。古葉監督が「北別府に経験を積ませる為にもっと投げさせたかった」と登板させようとしたが、新人王の有資格条件を満たす為に投球回数を29回1/3 で止めるよう球団側がストップをかけたくらいの本気度だ。
「新人王を獲る為には今ひとつ速球にキレをつけなければダメ。それにはもっと下半身を鍛える必要がある」と北別府自身も心得ている。池谷投手が最多勝のタイトルを獲得できたのも連日の早朝ランニングのお蔭だと言われている。だから北別府もそれに倣ってランニングには特に力を入れている。藤城投手(巨人)、斎藤投手(大洋)など有望な新人が顔を揃えたセ・リーグだけに新人王への道は容易ではないが、北別府本人は「アメリカの教育リーグで多くのことを学んだ成果を出したい。自信はあります」と胸を張る。この北別府が新人王を手にすればカープとして初の快挙となる。
◆ ギョッとした死球
大洋とのオープン戦で新人王候補の斎藤投手から右手に死球を受けた衣笠選手。現在、連続試合出場記録第7位の衣笠だけに痛みを堪える本人以上に周囲をドキリとさせたが軽症で済み「もしも開幕戦に間に合わなかったら大変なことになる。大事に至らなくて良かった」と関係者も胸を撫で下ろした。衣笠は昭和45年10月19日の巨人戦から昨季終了まで実に785試合に出場し続けている。仮に今季全試合に出場すると現在の7位から一気に3位に浮上する。それだけに周囲の心配は尽きないのだ。
病院での診察結果は右手親指の爪が少し傷ついただけで全治3日の軽症。オープン戦を2試合欠場した後に復帰した。「いやぁ助かったよ。もし開幕戦に出場できないとなったら僕も残念だけど、斎藤君も気の毒だからね」と新人を気遣う優しさを見せた。衣笠の身体の強さは日南キャンプの1500本ノックで証明済みだが、カープナインは改めて衣笠の球を避ける反射神経の良さに感心しきりだ。「並みの選手ならあの球はまともに喰らっていたよ」とウェーティングサークルで間近に見ていた山本浩二選手は言う。「こうした丈夫な身体に生んでくれた親に感謝しないとね(衣笠)」と。
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