優子は、やっと素直に答えた。
「でも、あんまり安心し過ぎるのも考えもんかな。だって、お父さん、本心はやっぱり一人娘のあんたを手放したくないんやから」
「本当?」
「そうよ。何やかや言ったって、寂しがり屋なんやもん、お父さんは…」
多津子は聖母マリアみたいな顔になった。
「こらーっ!何グズグズしとんじゃ!花婿はんの前ぐらいサッサとせな、呆れて逃げてしまいはるで」
源治は一層、声を張り上げて呼んだ。
「お父さん、それはないですよ、絶対に!」
「そない甘い事言うとったらアカんで。最初が肝心や、尻に敷かれとうなかったらな」
「それは、お父さんの事ですか?」
卓也もすっかりリラックスして源治とやり合っていた。案外、気が合う二人なのかも知れなかった。
その夜、優子は昼間の興奮の余韻が残っているせいか少しも寝つけなかった。
新しい第一歩を踏み出した記念すべき日なのだから、高揚しても無理ない話である。
優子は二階部屋から張り出して設えられた物干し台に出て見た。
もう秋である。ひんやりした夜風が優子を撫でて通り過ぎて行く。空には結構にぎやかに星が瞬いていた。
「あんた、待ってよ!」
多津子の声が階下でした。
見下ろすと、源治が大股でバタバタと家から出て来た。お気に入りのジャージの上下を着ているのを見れば、今から駅前のパチンコ屋に遠征するつもりらしい。
追いかけるように多津子が姿を見せた。これまたラフなスタイルで、なんと突っ掛け草履の足元である。夫唱婦随でのパチンコ屋遠征なのは、誰が見てもハッキリしている。
(大変な親を持ったものだ、私って)
優子は正直、そう思った。でも、そんな二人は紛れもなく父であり母であった。それが証明された、騒がしい一日だった。
優子は部屋に戻ると、手早くパジャマからジャージに着がえた。
今から追いかければ、百メートルも行かないうちに源治と多津子に追い付ける。しかし、それでは面白くない。優子は先回りして二人をビックリさせてやろうと考えていた。
電話が鳴った。出ると卓也が妙に疳高い声で喋った。卓也も優子と同様に昼間の興奮が治まっていないのは確かだった。
「優子のおやじ、俺、気にいったよ」
卓也の第一声は優子を喜ばせた。
「あんなに気が合うなんて思いもしなかったな。大体、優子が、行く前に脅かしたりするから、おやじさんの前で、俺、ビクビクもんさ」
昼間の卓也の姿が自然に浮かんで来た。蒼白に近い表情で、冷や汗をかきしゃちこばっていた卓也が、そんな事は忘れたかのようにはしゃいでいる。優子はニンマリとした。
(調子いいやつ!?)
その時、優子の頭に閃いた。卓也は父の源治とソックリな性格をしている。そうだ、そう言えば、ズーッと前から何となく、そう思っていた気がしないでもなかった。
娘は最後に、父親に似た男を結婚相手に選ぶーそれを実感する優子だった。 (完結)
「でも、あんまり安心し過ぎるのも考えもんかな。だって、お父さん、本心はやっぱり一人娘のあんたを手放したくないんやから」
「本当?」
「そうよ。何やかや言ったって、寂しがり屋なんやもん、お父さんは…」
多津子は聖母マリアみたいな顔になった。
「こらーっ!何グズグズしとんじゃ!花婿はんの前ぐらいサッサとせな、呆れて逃げてしまいはるで」
源治は一層、声を張り上げて呼んだ。
「お父さん、それはないですよ、絶対に!」
「そない甘い事言うとったらアカんで。最初が肝心や、尻に敷かれとうなかったらな」
「それは、お父さんの事ですか?」
卓也もすっかりリラックスして源治とやり合っていた。案外、気が合う二人なのかも知れなかった。
その夜、優子は昼間の興奮の余韻が残っているせいか少しも寝つけなかった。
新しい第一歩を踏み出した記念すべき日なのだから、高揚しても無理ない話である。
優子は二階部屋から張り出して設えられた物干し台に出て見た。
もう秋である。ひんやりした夜風が優子を撫でて通り過ぎて行く。空には結構にぎやかに星が瞬いていた。
「あんた、待ってよ!」
多津子の声が階下でした。
見下ろすと、源治が大股でバタバタと家から出て来た。お気に入りのジャージの上下を着ているのを見れば、今から駅前のパチンコ屋に遠征するつもりらしい。
追いかけるように多津子が姿を見せた。これまたラフなスタイルで、なんと突っ掛け草履の足元である。夫唱婦随でのパチンコ屋遠征なのは、誰が見てもハッキリしている。
(大変な親を持ったものだ、私って)
優子は正直、そう思った。でも、そんな二人は紛れもなく父であり母であった。それが証明された、騒がしい一日だった。
優子は部屋に戻ると、手早くパジャマからジャージに着がえた。
今から追いかければ、百メートルも行かないうちに源治と多津子に追い付ける。しかし、それでは面白くない。優子は先回りして二人をビックリさせてやろうと考えていた。
電話が鳴った。出ると卓也が妙に疳高い声で喋った。卓也も優子と同様に昼間の興奮が治まっていないのは確かだった。
「優子のおやじ、俺、気にいったよ」
卓也の第一声は優子を喜ばせた。
「あんなに気が合うなんて思いもしなかったな。大体、優子が、行く前に脅かしたりするから、おやじさんの前で、俺、ビクビクもんさ」
昼間の卓也の姿が自然に浮かんで来た。蒼白に近い表情で、冷や汗をかきしゃちこばっていた卓也が、そんな事は忘れたかのようにはしゃいでいる。優子はニンマリとした。
(調子いいやつ!?)
その時、優子の頭に閃いた。卓也は父の源治とソックリな性格をしている。そうだ、そう言えば、ズーッと前から何となく、そう思っていた気がしないでもなかった。
娘は最後に、父親に似た男を結婚相手に選ぶーそれを実感する優子だった。 (完結)