こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

歩いて徒然考

2014年12月27日 00時08分57秒 | おれ流文芸
歩いて徒然考

 あれだけ歩いたのは何十年ぶりだろうか。十一時に家を出て、目的地にようやく辿り着いたのは昼もとっくに過ぎた二時頃。山あり谷ありの行程と、途中で道に迷ったりと、総距離はハッキリしないが、とにかく長かった。
 このキツイ行動は、実は生来のウッカリ者の小生が免許証を紛失したことに端を発する。絶対抜けられない会合を目の前にして、免許不携帯か順法精神かの二者択一にかなり頭を悩ました挙げ句、これまた生来の小心者ぶりを発揮、自分の足で歩く決意に至る。
 車で二十分ぐらいの所だが、歩けば二時間はかかると目安をつけた。弁当とミカン、柿、それにちょっと大きめの魔法瓶をねじこんだリュックを背中に負ぶった。かなりの重さを感じたが、
「なにこれくらい!」
 と根っからの負けん気が顔を出す。若い頃、どこかしことよく歩き回ったキャリア(?)がある。
 コースは幹線道路を避けて、農道や畦道、山道のたぐいを選んだ。十一月に入ったばかりだが、数日前に木枯らし第一号が吹いている。出発した十一時頃も、やはり肌寒かった。年齢を考えて少し厚着をした。さ、スタートである。
 青空が広がる秋の田圃道を歩くのはさすがに気分がよかった。刈り取りの終わった稲株が点々と残る田圃を道がわりに歩くと、子どもの頃、農繁期に稲刈りに駆りだされたことを思い出す。
 今は亡き兄と藁を投げ合い、稲株を物ともせず、くんずほぐれつして転げ回った記憶。ツボキ作りに懸命な大人たちの大きな怒鳴り声。黄色いタクアンだけがおかずのデカイおにぎりを頬張った昼。神藁の匂いが漂うだだっ広い田圃に十人近くが円座を組み、賑やかに食べたおにぎりは最高に美味かった。
 時間を見るとすでに一時。道に迷ったのは確実だった。うらぶれた家並みが続いていても人影は全くない。石橋のたもとでドッカリと腰をおろすとリュックを開けた。紙コップにティーバッグ、そして熱湯。これで紅茶の出来上がり。まず一服。焦るのはそれからでいい。
 足元のリュックにツーと飛んできて止まったのは赤蜻蛉だった。胴の見事な赤色に目が吸い込まれる。そこに自然が息づいている。
 目的の建物が目に入ったときは二時前。二十分ばかりの遅刻だ。みんなの怒っている顔が浮かび、少し足は早まった。
 でも、いいじゃないか、時間なんて。時間に追いまくられる人間の不幸が、今日は他人事に思えない。そんなものを遥かに超越したゾーンを歩いてきた幸福。このまま歩き続けたい……!
 両肩の痛みが現実を呼び戻す。
 立派に護岸された川や、舗装道路の突然の行き止まり、人影のない田舎道、それでも、車クルマ……。人間はどこに向かって行くのだろうか?         (四十七歳記)
コメント
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