こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

海へいこうよ・その1

2014年12月22日 00時02分27秒 | おれ流文芸
海へいこうよ

「次の日曜日に海へいこうか?」
 お母さんが、いきなりてい案しました。
 ちょうど晩ごはんの途中だったリューゴは、箸をごはんにつきさしたまま、お母さんの顔を見ました。あまりにビックリしたからです。
 だって、家は商売をしていたので、今まで一度も、みんなそろって遊びにいったことがありません。いつもお母さんは、
「みんながごはんを食べられるように、お仕事がんばらないとね。ごめんね、みんな」
 と済まなそうに、あやまってばかりでした。
 それが、海へいこうだなんて、一体どうしたんだろうと、リューゴは不思議に思ったのです。
 同じように晩ごはんを食べていた、弟のショーゴや妹のナツミも、信じられないと言った顔をしています。
「どうしたの?お母さん」
 リューゴは思いきってたずねました。
「どうもしやしないよ。なに変な顔してんの、海へいくのが、そんなにうれしくないのかい」
 お母さんはガッカリしたようでした。そりゃそうです。お母さんは、きっと子どもたちが、もっと喜ぶときたいしていたのです。
「そんなことないよ。うれしいさ。なア」
 リューゴは、あわてて言うと、弟たちにも呼びかけました。
「うん、うれしいな。海って広いんでしょ」
 ナツミが、はしゃいで言いました。
「泳いでもいいんでしょ。ぼく少しだけど泳げるようになったんだぞ」
 ショーゴも、うれしくてたまらないふうです。スイミングスクールに通って、やっと泳げるようになったからです。
 みんなが、とてもうれしがったので、お母さんも、やっとニコニコしました。
「お仕事のほう大丈夫なの?」
 さすがリューゴは、お兄ちゃんです。もう新一年生になって、しっかりしてきました。ちゃんと質問もできるようになったのです。
「うん。お父さんが一人でがんばってくれるんだって」
 お母さんが、そう言うと、とたんにみんなは元気がなくなりました。家族みんなでいけると思ったのに、やっぱりお父さんはいけないのです。お父さんは、るす番なのです。
「お父さんもいけばいいのに」
 お父さんが大好きでたまらないショーゴが、つまらなさそうに言いました。
「そうよ、お父さんだけ、なかまはずれにしたら、かわいそうだわ」
 ナツミも小さな口をとがらせました。
「一日ぐらい、お休みとっていけばいいのに。お父さんは、ぜったいいけないの?」
 リューゴは、お母さんにききました。
「お店は休めないからね。でも、せっかくお父さんが、みんなに夏休みを楽しんでもらいたいって思ってんのよ。みんなが海へいかないなんて言ったら、きっとお父さん悲しくなってしまうよ。それでもいいかい?」
「……ううーん……」
 お父さんが悲しむなんてイヤです。でも、やっぱりお父さんもいっしょにいってほしいのです。だから元気のないへんじになりました。
 お母さんも子どもたちのようすに、
「ウーン」
 と弱ってしまいました。   (つづく) 
コメント
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