こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

祭りに燃えた夜

2014年12月15日 00時04分00秒 | おれ流文芸
 祭りに燃えた夜

10月15日は、わがムラの秋祭りが例年通りに行われた。私が住む地区にある高峰神社の氏子となる、西畑、東畑、窪田、西谷西と東の5地区から、布団屋台と神輿が出て練り回る。それなりに伝統のある祭りだった。
 今年の祭りは、我が家にとっては、かなり趣きが違うものになった。小3の息子が屋台の乗り子として初舞台を踏んだのである。その屋台を担ぐ父親としては、嬉しさ照れが半分半分の複雑な境地だったが、息子の方は相当意気込んで本番を迎えるに至った。
「二人とも朝風呂で身を清めて出るのよ」
 抜かりなく私の両親から即席の知識を仕込んで来た妻にいわれるがままに、朝早く風呂を沸かして入った。いつもなら平気で一緒に風呂に入っている息子だが、新たな気持ちでの入浴となると、何となくこよばゆい気がした。息子も少し緊張しているのか、言葉数がやけに少ないのがおかしかった。
 もともと、乗り子は少4からと決まっていたが、昨今の少子化傾向あおりを食った形で、息子は1年早く屋台に乗ることになった。太鼓蔵に一週間通い詰めた練習で、太鼓打ちは慣れただろう。子供は大人と違って覚えが早い。とはいえ本番は初めてなのだ。緊張するのも無理からぬ話である。
 昇り竜の絵柄の襦袢を着込んで兵児帯をキュッと締めると、不思議に気持ちも引き締まった。さあ、男衆を競う一日が始まるのだ。
 父親の心配をよそに息子は元気いっぱい屋台に乗り込み、太鼓を打った。4人一組のの乗り子が打つ太鼓のリズムは乱れを見せず豪快に響いた。息子の掛け声がはっきりと聞こえた。
 宮入と宮出に初乗りの息子の出番はなかったが、練り回す道程で都合4かいも、息子が乗っている屋台を父親が差し上げる幸運に恵まれた。
「ドン!」
「よーいやせ!」
「ドン!」
「よーいやせ!」
「ドン!」
「そら、よーいーとせ!」
 で、かき手が呼吸を合わせて勢いよく差し上げる。これこそ男ならばこその独壇場だった。
 しかも、息子が乗り手だと、やはり違うものだ。木の淹れ方が全然違う!乗りに乗っている。
「よいやさ、よいやさ」
「ドンドン!」 
 屋台を荒々しく前後に揺さぶる。祭りの醍醐味が、誰をも酔わせる。誰もがみんな火事場の馬鹿力を自然に剥き出していた。そこでは、もはや個人意識は無く、ムラの一員としての情熱を燃え上がらせる仲間の姿ばかりがあった。顔に表れた誇りと決意が映えて輝いていた。
 夜の9時頃に屋台を太鼓蔵に仕舞うと、蔵の前にシートを広げて無礼講の宴会が始まった。祭りを仕切る青年グループと私ら中年組や老年組が入り交じって酒を酌み交わした。乗り子もジュースの乾杯で仲間を気取った。 
 暗くなった帰り道、私と息子の話は面白いほど弾んだ。普段なら珍しい冗談口をたたき合う父親と息子だった。祭りでの燃焼は親子を初めて男同士と認め合わせるのに絶大な効果があったのだ。
 家に帰り着くと、私と息子はテーブルの上に並べられたご馳走が山盛りの皿に手を伸ばした。太鼓蔵の酒盛りでしこたま腹を満たしているが、気分の高揚はそんなものとは無関係だった。
「うまい!」
「うん、うまい!」
 息子と父親はパクついた巻き寿司を冗談にささげた。にやりと笑いを交わすと、親子の際限のない饗宴が始まった。祭りの仕上げは、こうでなくてならない。満足感に浸る私だった。

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