こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

希望を持った日

2016年01月11日 00時03分34秒 | 文芸
物心ついて以来、他人と喋るのが大の苦手だった。両親や家族相手でも、自分の言いたいことをはっきり伝えらずに、いつも他人行儀だった。
「お前って子は、内弁慶すぎる。世の中に出たらいっぱい損するだろうね」
 母はよくそうこぼした。それでも性格はそう簡単に変わるはずがなかった。どうしようもなく高校生活は孤独なまま終わった。
 卒業後、書店に就職した。寡黙で生真面目だけが唯一の取柄だった。黙々と仕事をこなす毎日。ある日、とてつもなく虚しさを感じた。(死ぬまで、こうなのかな天…?)と。
 店頭で仕事していると、否応なく客と対応する。その一人に小学校の先生がいた。いつも笑顔を絶やさない先生と、本を話題にかなり親しく話せた。ある日、何を思ったのか、先生は一枚のチケットをくれた。
「僕がやっているアマチュア劇団の発表会なんだ。ぜひ観にきてくれよ」
 初めて目の当たりにする芝居に感動した。舞台でいきいきとセリフを口にする人たちの姿に、(あんなになりたい!)と強く思った。生きてきて初めて抱いた希望だった。
 自分にあんな行動力があったとは驚きである。書店に顔を見せた先生をつかまえ、劇団に参加させてほしいと直訴した。先生は、やはり笑顔で応諾してくれた。あの笑顔がなかったら、やはり劇団参加は諦めたかも。
 書店の仕事とアマ劇団の活動と忙しい日々が始まった。人と喋れないはずが、舞台でのセリフは、ウソみたいに流ちょうだった。
 仕事芝居の二輪車ライフは、なんと四十年近く続いた。後半は自分がグループを率いた。社会に居場所が見だせない若者たちを何人も迎え、送り出した。もう孤独はどこかに去った。周りに仲間たちがいてくれた。
 人並みに結婚、四人の子供。喫茶店の経営に持ち家……充実した人生は、(あんなになりたい!)と、希望を持った日が始まりだった。
コメント
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