こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

やり直そう

2016年01月14日 00時16分22秒 | 文芸
ふいに足が止まった。

なにか目に入ったのだ。

見やると、

カラフルな観光旅行のパンフレットを、

差し込んだスタンドがある。

京都・嵐山の観光案内が、私の目を奪った。

 懐かしい気持ちにそそられ手に取った。

京都観光名所のカラー写真が、

記憶にある光景と重なる。

冬枯れた嵐山・渡月橋を、

寄り添い寒さをしのぎ、

黙々と歩く二人……。

 付きあっていた彼女が妊娠したので、

周囲が奔走、

結婚が急遽決まった。

当時、

ちいさな喫茶店を営んでいた私は、

常に商売優先。

結婚式も新婚旅行も、

考える余裕はなかった。

「奥さんのために、

結婚式も新婚旅行もやってあげなきゃ駄目だ。

それが男の責任だぞ」

 昔気質な父の言葉。

無視はできなかった。

 結婚式は父が急遽見つけた古い神社で済ませ、

新婚旅行は、

それでも妻と二人で決めた。

決めたというより、

親や友人たちの手前、

旅に出たと繕うためだったのだ。

 盛大な見送りを受け、

新幹線で出発。

近場の神戸ポートピアホテルに落ち着いた。

「もう帰ろうか?」

 私の気持ちを気遣う妻の顔を見ると、

とてもそんな気になれなかった。

愛する妻なのだ。

「京都へ行こう。

嵐山は君が行きたがってたとこだから。

それに二人一緒だと楽しいよ」

 足を向けた京都嵐山は、

寒々としたシーズンオフのさなか。

寒い中、

身重の妻と歩いた。

ただひたすら、

人影のない名所旧跡を……。

(あいつ、

何も言わず笑顔でいたけど、

きっとわびしい思いしてたんだろうな……)

 もう一度パンフレットに目を移した。

 そして決めた。

妻と桜満開の嵐山を歩こう。

三十六年目、

新婚旅行をやり直すのだ。

 寒さが厳しい中、

京都観光(?)を我慢強く共にしてくれた妻。

おなかの赤ちゃんと親子三人、

初めての旅だった。

あの日に知った妻の優しさと思いやりが、

四人の子に恵まれた幸福な家庭を、

身勝手な男にくれたのだ。

 今度は私。

愛をこめたふたり旅を贈ろう!

コメント
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