こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

お風呂

2016年01月22日 00時25分49秒 | 文芸
「おい。

ここはどうだ。

近いし、

まだ開業して一年になってないぞ」

 思わずでかい声が出た。

家から十五分もあれば、

ラクラク行き着ける銭湯だ。

ただし,

入湯税をいれて八百円と少し高めだ。

「いいじゃない、

新しいし、

目と鼻にあるんだから便利やん。

そこに行こ行こ」

 娘は大乗り気。

妻も異存はなさそう。

とにかく風呂に入れれば,

文句はないというわけだ。

「上の階は有料の特養施設になってるぞ。

お年寄りが多いな、

これは」

 さらに情報を確かめて報告する。

「いいのいいの。

とにかく行ってみよう」 

播但線福崎駅の近くだった。

マンション風の、

まだ新しい建物の一階にあった。

 受付カウンターでお金を払うと、

男湯と女湯に分かれた。

初めてのところに一人は心細いが、

仕方がない。

暖簾をくぐり,

入ったところが脱衣所。

やけに静かだ。

他に客はいない。

手近な脱衣棚を前に、

そそくさと服を脱いだ。

裸になると、

タオルを腰に巻く。

人影がなくても、

隠すべきものは隠すのがマナーだ。

 浴場のガラス戸を開けると、

温かい湯気に迎えられた。

ホッとする。

少し規模が小さい。

浴槽がふたつと標準的な設備は整っている。

 やはり人影はない。

貸し切りだ。

この状態では、

八百円でも大変だろう。

たぶん特養有料施設がメインの経営なのだろう。

どちらにしろ貸し切りは嬉しい。

家の風呂に入るようなものだ。

余分な気を使わなくて済む。

湯に身を沈めると、

うっとりと目を閉じた。

「おい。

きょうは風呂行かへんのか?」

 翌日の言い出しっぺは私だった。

「一週間やそこら風呂に入らなくても平気なひとが、

どないしたん?

勿体ないから二日に一回で,

ええ思うとったのに」

「あほか。

人間清潔が一番なんやで」

 攻守逆転。

妻は口あんぐりと呆れ顔である。

 浴場の戸を開けた。

あ?

もうガックリ!

芋の子になるしかない!

きょうは烏の行水だな。
コメント
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