こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ゆるぎ岩・その4

2016年01月26日 00時15分57秒 | 文芸
『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。

それにザラザラしたものが,

手のひらにくっつきました。

(お願いだよ。

『ゆるぎ岩』、

揺れてよ。

ぼく、

ズーッといい子でいたんだから。

これからも、

もっともっと頑張って,

いい子になるんだから)

 リューゴは自分の手に,

二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ,

手を当てました。

「うん。

よーし!

じゃあ押してみろ」

 お父さんが大声で言いました。

自分が押しでもするように,

手をゲンコに握り締めています。

「よいしょ!」

 リューゴは掛け声をかけて、

力いっぱい押しました。

「いいぞ、

リューゴ、

もっと押し続けろ」

 お父さんの声が、

リューゴの頭の後ろからかかりました。

「うん、

わかった、

お父さん。

よいしょ、

よいしょ、

よいしょーっと」

「よいしょ、

よいしょ、

よいしょーっと!」

 リューゴの掛け声に合わせて、

お父さんも同じように掛け声を掛けます。

お父さんは、

もう嬉しくて嬉しくてたまらないのです。

「よいしょ!」

「よいしょ!」

 リューゴは,

期待いっぱいで上を見上げました。

お父さんも同じように見上げました。

(さあ、

揺れろ……1、

2、

3……!)

 リューゴは心を込めて号令をかけました。

『ゆるぎ岩』がリューゴの願いに応えて、

ゆらーっと揺れやすいように……。

「あれ?」

「う?」

『ゆるぎ岩』は揺れません。

ちっとも揺れる気配はありません。

どうして?

リューゴがこんなに懸命になっているのに、

一体どうなっているんでしよう?

 リューゴは(アッ!)と思いました。

やっぱり心配した通りになったのです。

リューゴは『ゆるぎ岩』に,

いい子だと認めて貰えないみたいです。

リューゴはガッカリしました。

体中の力が抜けてしまいました。

くにゃくにゃと,

お父さんの腕の中に身を任せました。

「おい、大丈夫かい?」

 お父さんは,

しっかりリューゴを抱きとめました。

「……お父さん…ぼく、

ぼくって……悪い子なの?」

「何だって?」

 お父さんは,

リューゴに思いがけない質問をいきなりされて,

ビックリしました。

「……ぼくさあ、

ダメな子なの?

いけない子なの?」

 リューゴは悲しくてたまらない顔つきで,

お父さんを見上げました。

涙が胃尼にもこぼれそうです。

お父さんはすっかり戸惑ってしまいました。

「だって…だって…動かないよ、

揺れてくれないよ、

『ゆるぎ岩』が。

ちっとも揺れない……」

(ハハーン!)

 お父さんはやっと分かりました。

きれいでよい心の持ち主でないと、

『ゆるぎ岩』は絶対に揺れないんだ。

そうお父さんが話したのを、

リューゴはちゃんと覚えていたのです。

だから、

『ゆるぎ岩』が全然揺れなかったので、

自分は悪い子なんだと、

ひどくショックを受けているのです。

何とかしないと……。

「ああ、

ちょっと待てよ、

リューゴ」

 お父さんは首をひねって見せました。

「なに?

お父さん、

どうしたの?」

「うん。

いま思い出したんだ。

そうだそうだそうだったんだ。

お父さんが初めて『ゆるぎ岩』を押した時のことだ」

「揺れたの?」

 リューゴはお父さんの話をひと言も聞き漏らすまいと、

ちいさな体を乗り出しました。

「そうなんだ。

揺れたから、

もう嬉しくてたまらなかったよ」

 リューゴは、

お父さんの言葉にガッカリしました。

(ぼくが押しても揺れなかったのに、

お父さんの時は揺れたんだ。

やっぱり、

ぼくは悪い子なんだ……)

 リューゴがしょぼんとすると、

お父さんは頬笑んで、

こう言ったのです。

「お父さんひとりで、揺らしたんじゃないんだ」

「え?」

                            (つづく)
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