リューゴの住んでいる村は、
豊かな山々に囲まれた盆地にあります。
春、夏、秋、冬と季節が変わるたびに、
いろんな表情を見せて楽しませてくれる、
深い森がいっぱいの山々です。
その山には、
ズーッと昔からある神社とか、
伝説の場所とか、
いろいろあるのです。
リューゴは山の中腹にある『ゆるぎ岩』が大好きでした。
小さい頃から、
お父さんにしょっちゅう連れて行って貰っています。
お父さんは山歩きが大好きなのです。
リューゴは今年から小学一年生になりました。
小さな胸がドキドキしっ放しだった入学式も終わって、
リューゴがお母さんと家に帰ってくると、
お父さんが待っていました。
ニコニコしてリューゴを迎えてくれました。
「おめでとう。
リューゴもやっと一年生になったんだな」
「うん。ぼく、
一年生なんだ」
リューゴは得意そうに胸を張って言いました。
「よーし、
それじゃ、
あの約束を果たしてやろう」
「本当。
じゃあ、
服着がえてくるからね。
待っててよ」
「ああ、
いいよ」
お父さんは、
ポンとリューゴの頭に手をやりました。
慌てて服を着がえたリューゴは、
お父さんと一緒に山へ登りました。
もちろん、
『ゆるぎ岩』のある山です。
でも、
きょうはいつもとちょっと違って、
楽しいことが待っています。
そうですお父さんとの約束が実現するのです。
一年生になったら
(ゆるぎ岩を、
お父さんと一緒に揺すってみようか)
との約束でした。
『ゆるぎ岩』は四メートルもありそうな、
大きな岩がふたつ並んで寄り添っているのがそうです。
ひとつは三角おにぎりみたいな形だけど、
もうひとつの岩は随分不思議な形をしています。
卵を縦に立てたのと同じで、
いまにも倒れてしまいそうなぐらい根元が細いのです。
でも、
絶対倒れたりしません。
「さあ、
リューゴ、
よく見てろよ」
お父さんは『ゆるぎ岩』を前にして立つと、
リューゴをチラッと見て言いました。
「うん」
リューゴはちょっぴり緊張気味で返事をします。
お父さんはパンパンとかしわ手を打って、
さあいよいよです。
お父さんは『ゆるぎ岩』の表面に描かれてある手形へ、
手を伸ばしていきます。
白いペンキで輪かくだけの手形です。
ペッタリとお父さんの手は、
手形に合わさりました。
「それ!」
お父さんは掛け声とともに、
『ゆるぎ岩』を押しました。
リューゴは固唾を呑んで、
『ゆるぎ岩』のてっぺんを見つめます。
力いっぱい小さなコブシを握り締めました。
一回、二回、三回……
お父さんは『ゆるぎ岩』を押し続けます。
「アッ!」
リューっが驚きの声を上げました。
(つづく)