こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ゆるぎ岩・その3

2016年01月25日 02時07分39秒 | 文芸
「さあ替わろうか。

こっちへ来てごらん」

 お父さんは、

『ゆるぎ岩』から手を離して、

言いました。

 リューゴは緊張してコチコチになりました。

だから「うん」と返事をしたつもりなのに、

実際は声が出ていません。

「うん?

リューゴ、

どうかしたのか」

 お父さんも、

リューゴの様子がいつもと違うのに、

気がついたようです。

「……お、

お父さん…?」

 やっと声が出ました。

「ぼく……もう押さなくていいから……」

「あんなに楽しみにして、

待っていたじゃないか」

「で…でも……きょうはいいんだ、

もう」

 お父さんは、

「ハハーン」と気が付きました。

「リューゴ、

怖いんだろ?

もし揺れなかったら、

悪い子だってばれちゃうって」

「怖くなんかないよー!

ぼく、

一年生なんだぞ。

それに…それに、

ぼく、

悪い子じゃないからね」

 リューゴはむきになって、

言い返しました。

「そうだそうだ。

リューゴはもう一年生だもんな。

それに、

そんなに悪い子じゃない」

 いい子っていうところを、

お父さんは少しふざけて言いました。

そして急に真面目な顔になりました。

「実はな、

リューゴ。

お父さんも子供の頃、

そうだ、

ちょうどリューゴと同じ一年生だった。

初めて『ゆるぎ岩』に連れて来て貰ったんだ。

『ゆるぎ岩』を前にしたら、

なぜかブルブル震えだして、

手がだせなくなってしまったんだ」

「ほんとう?」

「ほんとうさ。

いまにも倒れてきそうな気がしたし、

押しつぶされたらどうしようって思ったんだ。

足元だって、

崖になってて、

なんか目がクラクラしてさ……」

 リューゴはがっかりしました。

(ボクが怖いのは、

いくら懸命に押しても、

『ゆるぎ岩』がびくともしなかったらって、

……動いてくれなかったら、

ぼくは悪い子になっちゃうんだぞ)

「よーし!

お父さんがリューゴの身体を、

支えといてやるから大丈夫だ、

な。

さあ安心して、

思い切り押してみろよ」

 お父さんはリューゴの肩に、

そーっと手を置きました。

 仕方ありません。

こうなったらやるしかないようです。

 リューゴは勇気を出して、

一歩前に足を踏み出しました。

目の前にゴツゴツした岩肌が迫ります。

思わずリューゴは目をつぶりました。

「よし!

さあいくぞー!

 お父さんはリューゴの腰に手を当てました。

お父さんの力強さが伝わってきます。

 リューゴは目を開けました。

もう覚悟は出来ました。

両手を岩肌に向けて突き出しました。

岩肌の感触が……!

「いいぞ。

よしよし、

いいか岩肌にペンキで書いてある手形に、

掌を合わせてごらん」

 リューゴにもう迷いはありません。

『ゆるぎ岩』は、

絶対に揺れてくれるんだと信じました。

あんなに頑張っていい子になってきたんだ。

『ゆるぎ岩』はきっと知ってくれているはずです。

偉いお坊さんがプレゼントしてくれた、

奇跡の御神体なのだから。

 リューゴは、

手を前に突き出しました。

    
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