「老人会かいな。
わい、まだそんな年やないのにのう」
「同じやわ。
わしも端にはそない思うたわ」
「六十になった早々に、これや。
素直に『ハイ、そうですか』なんて言えへんど。
まだ若いのに、年寄り臭いとこへ、のこのこ行けっかい。
のう、そやろ、テツローはん」
澤田の愚痴は止まらない。
この間まで市役所の総務部長だった男である。
高齢者としてひとくくりにされるのはプライドが許さないのだ。言いたいことは山ほどあるらしい。
「役員は順番やさかい、しょうないで。
そいで、こないに集金して回りよるんや」
「順番て、年の順かいな?」
「生年月日やと」
「へえ。テツローはんは二十三年やし。
マサシはんが次か。
わいにくるまで五人はおるのう」
話は尽きそうにない。
このまま付きあうと時間がいくらあっても足りなくなる。
とにかく集金だけは済まさないと、何しに来たのかわからない。
「まあ、おたくが役員になるまで五年はあるわいな。
そいで、きょうは集金に回っとるんや」
「ああ。そやったそやった。
ほな、これ払うわ。
えろう足止めさせて済まんかったのう」
やっと解放される。
千五百円の集金で、一時間近く拘束されては割が合わない。
「確かに預かりました。ほなら」
踵を返しかけるところに、
「会費は払うけど、寄り合いや行事の参加は、しばらくこらえてーな。
年寄りの中におるのん想像するだけで、もうアカン!
死んだ方がましやがな」
「わかった。じゃあ」
まあ好きに言っておけばいい。
時期が来れば、いやが応でも引っ張り出されるのだから。
久杉哲郎は澤田の家を離れると、次へ向かった。
もう九十近い女性の家だ。
老人会は九十を過ぎれば、会費免除になる規約がある。
あと一年で資格を得られるのに、惜しい。
哲郎の父は九十三歳になる。
まだまだ元気でピンピンしている。
会費は免除されている。
哲郎は新宅で、父と同じ隣保に家を持つ。
六年前だった。
介護保険の通知が来て、高齢者の仲間入りを知った。
「おい。
お前、今度の旅行行くんかい?」
父がいきなりやって来て訊いた。
寝耳に水とはこのことだ。
「え?」
面食らった。
父の問いかけに、すぐ思い当たるものはなかった。
「老人会の旅行やがい。
案内が来とるやろが」
老人会と言われても、まだピンと来ない。
「旅行て、なんの?」
「伊勢志摩へ行くて回覧……?
読んどらんのか、お前」
そう、読んでいない。
確かに集金と回覧を兼ねて、近所の奥さんが来たのは覚えている。
「まだ、わし若いのに。
はや老人会のご案内やなんてなあ。
まあ、しゃーないけど、行事の方は勘弁さして貰いますわ」
わい、まだそんな年やないのにのう」
「同じやわ。
わしも端にはそない思うたわ」
「六十になった早々に、これや。
素直に『ハイ、そうですか』なんて言えへんど。
まだ若いのに、年寄り臭いとこへ、のこのこ行けっかい。
のう、そやろ、テツローはん」
澤田の愚痴は止まらない。
この間まで市役所の総務部長だった男である。
高齢者としてひとくくりにされるのはプライドが許さないのだ。言いたいことは山ほどあるらしい。
「役員は順番やさかい、しょうないで。
そいで、こないに集金して回りよるんや」
「順番て、年の順かいな?」
「生年月日やと」
「へえ。テツローはんは二十三年やし。
マサシはんが次か。
わいにくるまで五人はおるのう」
話は尽きそうにない。
このまま付きあうと時間がいくらあっても足りなくなる。
とにかく集金だけは済まさないと、何しに来たのかわからない。
「まあ、おたくが役員になるまで五年はあるわいな。
そいで、きょうは集金に回っとるんや」
「ああ。そやったそやった。
ほな、これ払うわ。
えろう足止めさせて済まんかったのう」
やっと解放される。
千五百円の集金で、一時間近く拘束されては割が合わない。
「確かに預かりました。ほなら」
踵を返しかけるところに、
「会費は払うけど、寄り合いや行事の参加は、しばらくこらえてーな。
年寄りの中におるのん想像するだけで、もうアカン!
死んだ方がましやがな」
「わかった。じゃあ」
まあ好きに言っておけばいい。
時期が来れば、いやが応でも引っ張り出されるのだから。
久杉哲郎は澤田の家を離れると、次へ向かった。
もう九十近い女性の家だ。
老人会は九十を過ぎれば、会費免除になる規約がある。
あと一年で資格を得られるのに、惜しい。
哲郎の父は九十三歳になる。
まだまだ元気でピンピンしている。
会費は免除されている。
哲郎は新宅で、父と同じ隣保に家を持つ。
六年前だった。
介護保険の通知が来て、高齢者の仲間入りを知った。
「おい。
お前、今度の旅行行くんかい?」
父がいきなりやって来て訊いた。
寝耳に水とはこのことだ。
「え?」
面食らった。
父の問いかけに、すぐ思い当たるものはなかった。
「老人会の旅行やがい。
案内が来とるやろが」
老人会と言われても、まだピンと来ない。
「旅行て、なんの?」
「伊勢志摩へ行くて回覧……?
読んどらんのか、お前」
そう、読んでいない。
確かに集金と回覧を兼ねて、近所の奥さんが来たのは覚えている。
「まだ、わし若いのに。
はや老人会のご案内やなんてなあ。
まあ、しゃーないけど、行事の方は勘弁さして貰いますわ」