「帰って来るから、
ご馳走用意してやってね」
仕事に出る妻が念を押す。
それぐらい言われなくとも承知している。
父親なのだ。
大切な娘の里帰り、
しかも初孫が一緒に戻る。
腕によりをかけて、
娘の好物をいっぱいテーブルに並べてやる。
喜ぶ顔が目の前に浮かぶ。
いやはや顔がにやけてどうにもならぬ。
冷蔵庫を開けると、
買い置きの食材をチェックする。
揃っている。
これなら十分間に合う。
さっそく料理作りに入る。
娘の好物は、
若いくせに意外と和風の家庭料理。
私と好みが同じだ。
これには理由がある。
娘を授かった時は、
商売を始めたばかり。
忙しく子育ては実家の母に委ねた。
結果、
おばあちゃん子に育った娘。
成長してからも何かにつけて実家だ。
帰宅すると、
「今日ね、
おばあちゃん、
混ぜごはん作ってくれたんよ。
すげぇー美味しかったー!」
「あの茶碗蒸し、
最高!
おばあちゃん、
料理上手いね。
何でも作れるもん。
尊敬しちゃう!」
母の手料理を褒められると、
やはり嬉しかった。
当然である。
私も母の手料理に魅了されて育ったひとりなのだ。
母が得意とした料理はカシワごはんに茶碗蒸し、
自家製のみそを使ったみそ汁や煮しめ。
どれも私の大好物。
母は天国だが味は残った。
定年退職してから、
我が家の料理番となった。
従事していた仕事はレストランのコック。
料理はお手のものと言いたいが、
和風の家庭料理は初心者。
ネットや雑誌でレシピを参照して丁寧に作った。
隠し味は父親の愛情だと悦にいっていると、
娘が口を尖らせた。
「味が違うじゃん、
この茶碗蒸し」
「そんなことないやろ。
おばあちゃんが作ったのんと同じやぞ」
ひと口味わう。
(!)
娘の言う通り。
母が生み出した味とひと味違う。
これでは何度作っても
娘の納得は得られない。
私も……だ?
市販のだしの素をやめて、
昆布とカツオで丁寧にとった。
蒸しあがると何度も味見を重ねるうちに、
母を思い出す。
気が付くといつも母は白い割烹着姿で
台所に立っていた。
私に気づくと、
満面の笑みでお玉を構えて見せたっけ。
天国でも美味いものを作っているんかな。
元気か?
……母ちゃん!
涙が出そうだ。
母の茶碗蒸しではなく、
私の茶碗蒸しを仕上げた。
もちろん母のを真似たカシワごはんも炊く。
ホウレン草のお浸しにチリメンをまぶした。
かぼちゃと茄子の煮つけも用意した。
現役のころ専門にしていた洋食系のおかずは
すっかり影を潜めている。
けせらせらだ。
娘が食事をする間、
赤ちゃんのあやし役だ。
「はい、おじいちゃんやで。
早う大きゅうなれよ。
いっぱい美味いもん食わしたるさけ」
たぶん無理だろう。
遅くに得た初孫だ。
この赤ちゃんが
いっぱしの味見が出来る頃には、
この世にいないか寝たきりだ。
苦笑する。
「おいしい!
お父さんの料理が一番や」
泣ける言葉を聞こえよがしに言う娘。
『おやじの味』が、
娘に認められつつあるのかも
ご馳走用意してやってね」
仕事に出る妻が念を押す。
それぐらい言われなくとも承知している。
父親なのだ。
大切な娘の里帰り、
しかも初孫が一緒に戻る。
腕によりをかけて、
娘の好物をいっぱいテーブルに並べてやる。
喜ぶ顔が目の前に浮かぶ。
いやはや顔がにやけてどうにもならぬ。
冷蔵庫を開けると、
買い置きの食材をチェックする。
揃っている。
これなら十分間に合う。
さっそく料理作りに入る。
娘の好物は、
若いくせに意外と和風の家庭料理。
私と好みが同じだ。
これには理由がある。
娘を授かった時は、
商売を始めたばかり。
忙しく子育ては実家の母に委ねた。
結果、
おばあちゃん子に育った娘。
成長してからも何かにつけて実家だ。
帰宅すると、
「今日ね、
おばあちゃん、
混ぜごはん作ってくれたんよ。
すげぇー美味しかったー!」
「あの茶碗蒸し、
最高!
おばあちゃん、
料理上手いね。
何でも作れるもん。
尊敬しちゃう!」
母の手料理を褒められると、
やはり嬉しかった。
当然である。
私も母の手料理に魅了されて育ったひとりなのだ。
母が得意とした料理はカシワごはんに茶碗蒸し、
自家製のみそを使ったみそ汁や煮しめ。
どれも私の大好物。
母は天国だが味は残った。
定年退職してから、
我が家の料理番となった。
従事していた仕事はレストランのコック。
料理はお手のものと言いたいが、
和風の家庭料理は初心者。
ネットや雑誌でレシピを参照して丁寧に作った。
隠し味は父親の愛情だと悦にいっていると、
娘が口を尖らせた。
「味が違うじゃん、
この茶碗蒸し」
「そんなことないやろ。
おばあちゃんが作ったのんと同じやぞ」
ひと口味わう。
(!)
娘の言う通り。
母が生み出した味とひと味違う。
これでは何度作っても
娘の納得は得られない。
私も……だ?
市販のだしの素をやめて、
昆布とカツオで丁寧にとった。
蒸しあがると何度も味見を重ねるうちに、
母を思い出す。
気が付くといつも母は白い割烹着姿で
台所に立っていた。
私に気づくと、
満面の笑みでお玉を構えて見せたっけ。
天国でも美味いものを作っているんかな。
元気か?
……母ちゃん!
涙が出そうだ。
母の茶碗蒸しではなく、
私の茶碗蒸しを仕上げた。
もちろん母のを真似たカシワごはんも炊く。
ホウレン草のお浸しにチリメンをまぶした。
かぼちゃと茄子の煮つけも用意した。
現役のころ専門にしていた洋食系のおかずは
すっかり影を潜めている。
けせらせらだ。
娘が食事をする間、
赤ちゃんのあやし役だ。
「はい、おじいちゃんやで。
早う大きゅうなれよ。
いっぱい美味いもん食わしたるさけ」
たぶん無理だろう。
遅くに得た初孫だ。
この赤ちゃんが
いっぱしの味見が出来る頃には、
この世にいないか寝たきりだ。
苦笑する。
「おいしい!
お父さんの料理が一番や」
泣ける言葉を聞こえよがしに言う娘。
『おやじの味』が、
娘に認められつつあるのかも