こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

おい、おい、老い!・4

2016年06月05日 00時08分19秒 | 文芸
不思議だが、

並ぶより待つのは苦にならない。

いつも誰かと待ち合わせると、

必ず三十分前に出向く。

根っから小心者なのだ。

約束の時間に遅れることが

不安だし、

遅れてもうまく弁解できない。

それなのに

相手が十分以上遅刻しても、

文句ひとつ言わず

ニコニコしているだけ。

相手には都合のいい男だった。

 十五分前になると、

躊躇なく卵売り場に急ぐ。

ラックに山ほど積まれた卵を一パック、

やっと確保すると、

レジに急ぐ。 

なにしろ五パックは手に入れたい。

ひとり一パックの制限を

クリアするには、

レジを通過した足で

また売り場に取って返し

並ぶしかない。

 カートに五,六パックほど積んだのを

レジ近くに止め置き、

往復距離を短縮する常連客がいる。

馬鹿正直者には

呆れ果てた所業だ。

その上を行くのが、

ひとりで

ご来店が明白にもかかわらず、

レジを悠然と突破する輩たち。

「お連れ様はおってですか?」

「ああ。

あっこに待っとるんや。

あれ?どこ行ったんや。

しょうのないやっちゃなあ、

そこに居れ言うとんのに。

年寄りやさかい許したってーな。

うちの奴どっかで休んどるわ」

 レジスタッフも

毎度のことだから心得ている。

それに自分が損するわけではない。

確認の言葉をかければ、

それで事足りる。

とはいえ、

嘘も使いようと

要領よく

レジを切り抜ける連中の真似は

とうてい出来ない。

哲郎は根が生真面目、

いや小心者なのだ。

 出たり入ったりで確保した

五パックの卵を

マイ・バッグに詰め、

いったん車まで戻る。

助手席に積み上げておいて、

また売り場へ。

手早く

他の食材を調達する。

「おはようさん」

 レジに並ぶと

声がかかった。

定年まで勤めていた

弁当工場の同僚だ。

彼も、

もう定年を迎えている。

しょっちゅうこのスーパーで

顔を合わす。

アパートに一人住まいだから、

買い物は自分でやるしかない。

人それぞれ事情がある。

それも贅沢が叶わぬ

年金暮らしどうしなのだ。

安売り卵の購入は、お互いに欠かせない。

「お宅もまた卵かいな?」

「当たり前やがな。

物価の優等生やで、

それに乗っからんと、

やってかれんわ」

 それらしいうんちくを

口にしあう。

「一パックあったら、

一週間は持つもんのう」

 同僚の顔が

ショボクレて見える。

「なに言うとんや。

一パックじゃ足らへん。

うち三人家族やけど、

きょうは五パック狙いや、

五パック!」

「そないようけ買うて

腐らしたら勿体ないど」

「アホ言え、

腐らすような下手すっかい。

卵があったら、

他におかずがのうても、

どないかなるやろが」

「……消味期限切れたら……?」

「そんなもんべっちょないわ。

加熱したら

なんぼでもいけよるで」

 卵は重宝だ。

消味期限は

生で食べられる期限を

表示している。

卵かけごはんなら、

それを越すと怖い。

なら焼いたり茹でたりして

食べればいい。

消味期限が切れたら

加熱すりゃいいのだ。

厚焼き、出し巻き、

オムレツ、炒り卵、ハムエッグ……。

飽きることはない。

そうそう、

最近卵を使ったスィーツに凝っている。

中でもプリンはお手のものだ。

「あんた、

このプリン

売ってるもんより美味いやないの。

切らさんように作っときや」

 めったに亭主を褒めない妻が

褒めそやすぐらい、

自家製プリンはマジ美味である。

冷蔵庫に作り置きしておけば、

甘いものに目がない、

わが家のオンナどもが消費してくれる。

勿論亭主だって、

酒やたばこと縁切りして以来、

寂しい口を補ってくれるのは

甘いものだ。

十個ぐらいは、

すぐなくなってしまう。

コメント
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