こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

おい、おい、老い!・2

2016年06月03日 00時13分21秒 | 文芸
確か澤田と同じ愚痴を

口にしている。

そうか、

あの時手渡されたチラシ……?

あれが旅行の案内だったのだ。

(関係ないわ)と、

丸めてごみ箱に

放り込んだ記憶がある。

もちろん中身は

目を通しもしていない。

「そいで、行くんやろ」

 父は勢い込んで念を押す。

よほど息子を同行させたいに違いない。

 こんな状況は考えもしなかった。

父と息子が同じ老人会の会員とは、

ショックを覚える。

「いや……行けへん。わし忙しいんや」

 自然と否定が口をついて出た。

「そうけ。お前は行かへんのか……?」

 父は肩を落とした。

相当の落胆ぶりだった。

それが気にならなかったのを思い出す。

(年寄りの仲間入りは、まだご免やで)と一点張りにこだわった。

 あれから六年、

父と息子が共に

老人会の旅行に行くことはなかった。

(今年は役員やさかい、旅行は行かなあかんわのう)

 集金先に向かいながら、

ひとりごちた。

 ただ父と息子の同舟は叶いそうにない。

九十を越した父に、

その元気はもうない。

(皮肉やけど、それが人生っちゅうもんやで)

 哲郎は宙を仰いだ。

「明日、あの子、帰るって」

 集金から帰った哲郎を

妻の声が出迎えた。

あの子とは、

長女なつみ。

昨年六月に結婚して、

この春、

出産した。

遅い初孫に、

喜び半分戸惑い半分でおじいちゃんになった。

「なんかおいしいもん用意したってや」

 哲郎の出番である。

脱ぎかけた靴を履きなおす。

家に上がる暇が惜しい。

六年前から、

定年まで弁当工場の製造部門で調理を担当したキャリアを生かして、

家族の食事を担当している。

十三歳開きがある妻は仕事で忙しく

料理する暇などない。

といってイヤイヤやっているわけではない。

家族が「うまい、うまい」と食べている光景を目にすると、

たまらなく幸せな気分になる。

それが続き、

妻に賄いさせる気は毛頭なくなった。

中でも長女は

哲郎の料理が一番のお気に入りである。

あの子には、

腕によりをかけてご馳走を作ってやると、気が引き締まる。

(よし。買い出しだ!)

 いつも行くスーパーが安売りの日だった。

ISスーパーまで、車なら十分だ。

歩けば四十分は有にかかる。

とにかく急ごう。

哲郎は両腿をパンと叩いた。

「どうしたん?上がらんの?」

 台所でお茶の用意をしていた妻が

手を拭きながら顔を覗かせた。

そういえば妻には

まだ出かけると言っていない。

「買い物や。ISに行って来るわ」

「あ?そうか、今日は火曜日だっけ」

「そうやで。安う買うてくるわな」

「あんまり無駄使いせんといてや」
コメント
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