こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

健康ガクガク・その1

2016年06月25日 00時28分47秒 | 文芸
二階に上がると

広々としたロビーだった。

廊下の左手に、

貼り紙されたスタンドがある。

どうやら、

ここらしい。

観音開きのドアが

開け放されている。

ソーッと覗くと、

広い室内に五人の女性が

せかせかと立ち働く姿があった。

並んだ長テーブルに、

コピーした資料と小冊子を配っている。

「すんません」

 入り口近くで作業中の女性が

振り返った。

「あの……ここ、

メタボの……」

「あ、ああー。

そうですよ。

どうぞ入って下さい」

「……どうも」

 名前を告げると、

別の女性が入れ替わった。

「〇〇さんの担当をさせて頂きます、

保健師の△△です。

よろしくお願いします」

「あ?どうも……

よ、よろしく……」

 どぎまぎする。

女性との会話は苦手だ。

まして相手は若い。

彼女の対象になるはずもないのに、

妙に意識してしまう。

 案内された長テーブルに

名札があった。

目の前に重ねられた資料本を一瞥すると、

ここに足を運んだ目的を思い出す。

『保健指導ツール 朝晩ダイエットでスマートライフ』「自分に合った減量法をみつけよう」の表紙は、

ストレートに訴えて来る。

 二か月前に集団検診を受けた。

結果はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予備軍。

間をおかず市健康課から電話で、

特定保健指導教室の参加を促された。

優柔不断な性格で、

断る勇気はない。

参加を決めた。

「行ったらええ。

ひとりじゃ怠けるけど、

お仲間さんがいれば、

あなたも続けられるわよ」

 さすが妻は心得ている。

 実は三年前、

やはりメタボ教室へ参加している。

やる気十分だったのは最初だけ、

最後まで続かず

中途半端な形で終わった。

それを妻はいつまでも皮肉って

からかう。

今回は

同じ轍を踏むわけにはいかない。

 時間までに集まった参加者は

男性ばかり四人。

似通った年恰好である。

看護師に血圧を測られる。

続いて身長体重の測定だ。

最後が腹囲。

メタボを最も自覚するポッコリおなかを

メジャーで測られる。

意識したら

自然とおなかがペコッと

引っ込んだ。

「それじゃ正確に測れませんよ。

はい、力を抜いて下さい」

 保健師は手慣れている。

「力入れてるつもり

ないんやけど」

「みなさん緊張されるんよ。

リラックスして下さい。

正確なところが測れませんから」

 適当に相手を務めながら、

保健師は

手順通り測定を済ませる。

「どないですか?」

「う~ん。

それなりの数字ですね」

 保健師はニッコリ笑う。

意味ありげに…!

「どないでっか?」

 席に戻ると

隣に座った男性が訊いた。

「やはり無罪放免になりまへんわ」

「そうでんな。

郷に入れば郷に従え、

いいますやん。

覚悟決めな、

あきまへんな」

「そやから

悩むねんなあ」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする